そばの根はなぜ赤い
そばのねはなぜあかい

2024/10/20(日)

あらすじ

そばの花は真っ白で、雪のように白いのに、その根は血のように真っ赤です。こんな話があるので

す。

むかし、三人の男の子を持ったおかあさんがありました。総領が太郎さん、二番めが次郎さん、い

ちばん末っ子が、三郎さんです。

ある日、おかあさんは、町まで買い物の出がけに、三人の子供を呼んで、

「おかあさんは町まで買い物に行って来ます。じき帰って来ますから、三人で仲良くお留守番ををす

るのですよ。戸をしっかりしめて、家の中に入っておいでなさい。ひょっとすると悪い山姥が、おか

あさんの姿に化けて、お前たちを食べに来るかも知れません。山姥はいくら上手に化けても、声がし

ゃがれていて、手足は真っ黒です。決してけっしてだまされてはいけませんよ。戸を開けてはいけま

せんよ。」といい聞かせました。

「おかあさん、心配しないでもいいよ。おかあさんのいうとおりにして待っているからね。」

と言ったので、おかあさんは出かけて行きました。

ところがおかあさんは、なかなか帰って来ないで、日が暮れかけてきました。子供たちはだんだん

心配になってきました。

「おかあさんはどうしたんだろうね。」とみんなでいい合っていますと、誰か表の戸をとんとんとたた

いて、

「子供たちや、開けておくれ。おかあさんだよ。お前たちのすきなおみやげを、たんと買って来たか

らね。」といいました。

けれども子供たちは、しゃがれたがあがあ声をしているから、おかあさんではないと思って、

「あけない、あけない、お前はおかあさんじゃあないよ。おかあさんはやさしい声だ。お前の声はが

あがあしゃがれている。お前はきっと山姥にちがいない。」

といいました。

山姥は、おかあさんをつかまえて食べてしまったのです。そしておかあさんに化けて、子供たちを

食べに来たのです。

山姥は、子供たちが入れてくれないものですから、村で油を盗んで、それを飲んで、喉をやわらかに

して、また戻って来ました。

「子供たちや、あけておくれ。おかあさんだよ。おみやげを、たんと買って来たからね。」といい

ました。

今度はおかあさんと同じような、やさしいいい声でした。けれども子供たちはまだ本当にしないで、

「じゃあ、先に手を出してお見せ。」と言いました。

山姥が戸のすきまから手を出しました。それは黒くて、がさがさしていました。

「いいえ。あけない、あけない。おかあさんはもっと白くて柔らかな手をしている。お前は山姥にち

がいない。」

そこで山姥は村で小麦粉を盗んで手足にふりかけ、とんとんと戸をたたきました。「子供たちや、

あけておくれ。おかあさんだよ。おみやげを、たんと買って来たからね。」子供たちは中から、

「じゃあ、手をお見せ。」と言いました。

山姥はまた戸のすきまから手を出しました。こんどは手が白かったので、それではおかあさんにち

がいないと思って、子供たちは戸をあけて、山姥を中へ入れました。

おかあさんに化けた山姥は、お夕飯をたくさん食べて、いつものとおり末っ子の三郎と、奥の間に

入って寝ました。太郎と次郎は二人で、おもての間に寝ました。

夜中にふと、太郎と次郎が目を覚ますと、奥の間で何かを食べているような音がしました。それは

山姥が、三郎を食べているのでした。

「おかあさん、おかあさん、それは何の音ですか。」と、太郎が聞きました。

「おなかが空いたから、たくあんを食べているのだよ。」と、山姥が言いました。

「わたいも食べたいなあ。」と、次郎が言いました。

「さあ、上げよう。」

と、山姥は言って、三郎の小指をかみ切って、子供たちの方へ投げ出しました。太郎がそれを拾っ

てみると、人間の指のようでした。太郎は、びっくりして、そっと布団の中で、次郎の耳にささやき

ました。

「山姥にちがいない。三郎ちゃんを食べているのだよ。ぐずぐずしていると、こんどはわたいたちが

食べられる。早くく逃げよう、逃げよう。」

「おかあさん、おかあさん、お小用に行きたくなりました。」

といいました。

「じゃあ、起きて外へ出て、しておいでなさい。」

「戸があきません。」

「にいさんに開けておもらいなさい。」

そこで太郎と次郎は逃げ支度をして、のこのこ布団からはい出して、戸をあけて外へ出ました。空

はよく晴れて、星がきらきら光っていました。二人はお庭の井戸のそばの桃の木の上まで登りました。

そしてそっと息を殺してかくれていました。

いつまでたっても、兄弟がお小用から帰って来ないので、山姥はのそのそ探しに出て来ました。さ

んざん探して、喉が渇いたので、水を飲もうと井戸のそばに寄ると、桃の木の上に隠れている兄弟の

姿が、水の上にはっきりと写りました。

「小用に行くなんて人をだまして、そんなところに上がっているのだな。」

と、山姥は木の上を見上げて、兄弟を叱りました。

「どうして登った。」と、山姥が聞きますから、

「びんつけを木になすって登ったよ。」と、太郎が言いました。

「ふん、そうか。」

山姥はびんつけ油を取ってきて、桃の木にこてこてなすりはじめました。

「それ、登るぞ。」

といいながら、山姥は桃の木に足をかけますと、つるつる、つるつる、何度も何度もすべ堕ちまし

た。

すると次郎が上から、

「ばかな山姥だなあ、びんつけをつけて木に登れるものか。なたで切り形をつけて登るんだ。」

といって笑いました。

「その鉈はどうした。」と、山姥が聞きますから、

「鉈は井戸の底に入っているよ。」と、次郎は言ってまた笑いました。

山姥は、物置から鎌をさがして来て、桃の木に新しい切り形をつけはじめました。山姥が桃の木に切

り形をつけはじめたのを見て、兄弟は心配になってきました。そのうちどんどん山姥は登って来まし

た。

二人は大空を見上げながら、

「お天道さま、金の綱。」と叫びました。

すると、大空の上から、長い鉄の綱がぶら下がってきました。太郎と次郎はその綱にぶら下がって、

するする、するする、大空まで登って逃げました。

山姥はそれを見ると、同じように空を見上げて、

「お天道さま、腐れ縄。」と大声を上げてわめきました。

すると大空の上から、長い腐れ縄がぶら下がって来ました。山姥はその縄にぶら下がって、どこま

でもどこまでも登って行きました。だんだん縄が弱ってきて、ぷつりと切れました。

山姥は大空からまっさかさまに、ちょうど大きなそば畑の真ん中に落ちました。そしてそこにあっ

た大きな石にひどく頭をぶっつけて、たくさん血を出して、死んでしまいました。その血がそばの根

を染めたので、いまだにそれは血のように真っ赤な色をしているのです。


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