あらすじ
むかし、むかし、東北地方の人々は、「座敷わらし」と言う家の守
り神がいると信じていました。
ある日のことです。東北地方のある川で、いつものように小舟に乗
って魚を取っている人がいました。魚網を引き上げようとした時で
す。子どもが自分を呼んでいるような声が聞こえました。振り向く
と、荷物を風呂敷に包んで川岸に立っている子どもが、自分の方に
手を振っています。
「今、呼んだのはお前さんかな。そんな所で何をしているのかな。」
「僕、向こう岸まで泳ごうと思ったんだけど、水が冷たくて止めた
んだ。向こう岸まで僕を乗せてってくれないかな。」
「いいよ。でもちょっと待ってくれ。網を上げ終わったら、向こう岸に連れて行ってやるから。」
男は、舟を漕ぎながら、隣りに座っている子どもに尋ねました。
「さて、これからどうするつもりかな。」
「うん、僕、ほんの数時間前まで、あの村に古くからある家に何の不自由もなく暮らしていたん
だ。でもこんど家を立て直すことになったんで、僕そこを出ることにしたんだ。こっちにも古い
家があるんだ。」子どもは、反対側の村を指差し、言いました。「しばらくそこに居ようと思う
んだ。」
舟は、じきに川岸に着きました。
「着いたぞ。元気でな。坊や。」男が振り返ると、子どもの姿はありません。キツネにつままれ
たような思いでした。
うわさによると、村一番繁盛した家が突然振るわなくなったそうです。家を立て直したからだ、
と人々は口々に言いました。一方、別の古びた家が突如繁盛し始めました。
こっちがわの古い家で何が起こったのか知りたいことでしょう。それではお話いたしましょう。
そこは古くからある宿屋でしたが、実はうまく行っていませんでした。宿泊客が何日もいないこ
ともありました。でもある日のこと、客が一人泊まり、夕食後、くつろいでいると、男の子が部
屋に入って来ました。
「僕と腕相撲やらない。」
「いいよ。でも坊やには勝ち目はないよ。」暇を持て余していた客は、子どもの誘いを受け入れ
ました。ところが何回やっても子どもには勝てません。とうとう降参しました。
翌朝、男は宿の主人に言いました。
「実に強いお子さんですね。夜、腕相撲をやって、楽に勝てると思いましたが、何回やっても勝
てません。息子さんに勝てる者はいないでしょう。」
「息子と腕相撲。何のことでしょう。家には息子なんていませんよ。」
それからと言うもの、そのうわさは広まり、宿屋はあっと言う間にその地方に知れ渡りました。
大勢の客がやって来ては、その部屋で一泊したいと思いました。宿は泊り客であふれていました。
数年が経ち、宿屋の主人は、誰かが玄関から出て行くような気がしました。入り口を見ましたが、
誰もいません。それからというもの、客の足はすっかり途絶えてしまいました。
「あの子がどこかに行ってしまったんだわ。」人々はうわさしました。
座敷わらしとは、母親からこの世に来るように呼ばれなかった、生まれてくることを望まれなか
った子どもたちです。東北地方では、貧しい農民は乳飲み子がいては暮らして行けない時期があ
りました。あの天明の飢饉では何十万人もの人が亡くなったそうです。その飢饉だけではなく、
何年にも渡って厳しい生活が続きました。家族が生き残るため、生まれたばかりの赤子は殺され
たり、捨てられたりしました。そんな厳しい時に生まれた子どもは何と気の毒なことだったしょ
う。命を奪われた子ども達も、他の幸せな男の子、女の子と同じように、この世に生き、生活を
楽しみ、友達をつくりたいと思ったことでしょう。
座敷わらしはいたずら好きで、いじわるな人には悪さ(わるさ)をします。でも正直な人はこっ
そりと守ってくれます。
東北地方を訪れ、座敷わらしに会える機会があれば、家の守り神の存在を信じることでしょう。

















































