あらすじ
むかし、むかし、人里離れた山奥にお母さん鬼と五
百人の子鬼がおりました。お母さん鬼は、夜な夜な
山を降りて来て村に忍び込み、人間の子供達を沢山
さらいました。それは、鬼の親子が生きていくため
の糧(かて)でありました。お母さん鬼は、その子
達をかわいそうだ、などど思ったことはありません
でした。ましてその子達のお母さんの悲しみなど考
えたこともありませんでした。
お釈迦様は、子供たちの断末魔の叫びを夜毎耳にし
て、痛く悲しみ、犠牲になった子供たちや、その母
親たちを気の毒に思いました。お釈迦様は、これ以上、母鬼の野蛮な振る舞いを許すわけにはい
きませんでしたから、お母さん鬼が誰よりも可愛がっている赤ちゃん鬼を秘密の場所に隠しまし
た。
お母さん鬼は、まもなく赤ちゃん鬼がいなくなったことに気が付きました。わが子を求めてあら
ゆるところを探しました。山の中はもちろん山の周りも、行ける限りの村々も。愛児を失った悲
しみから、天を仰いで一日中泣き叫びました。その声はお釈迦様の耳まで届きました。お母さん
鬼は結局最後の手段としてお釈迦様に望みを託しました。
お母さん鬼はお釈迦様に訊ねました。
「行方不明の乳子を捜しております。お釈迦様は不思議な力をお持ちです。どうか私の子供の居
場所を教えてください。」
お釈迦様は聞き返しました。
「そなたは子供を捜しておるのか。そなたにはまだ子供が沢山いるではないか。何故そんなにひ
どく悲しんでおるのだ。」
お母さん鬼は、後生だからお慈悲を、とお釈迦様に泣きつきました。
「おっしゃるとおり私には五百人の子が・・・でもでも私の大事な子がいなくなってしまいまし
た。ありとあらゆる所を探してみましたが、足跡ひとつ見つかりませんでした。慈悲深きお釈迦
様、どうか居場所を教えてください。」
「随分悲しそうな顔をしているな。しかし同情はしないぞ。お前は人間の子供を沢山殺した。
あの母親達の嘆きはどんなに深いことか!そのことを考えたことがあるか。」お釈迦様は問いま
した。
お母さん鬼は返事ができないまま、深くうなだれておりましたが、やっとこう言いました。
「子供を失うことは耐えられないことです。私の心が粉々になったような気がします。こんな気
持ちになったのは初めてです。またあの子を抱きしめられるのなら、どんな苦労もいといません。」
「ようやくお前にも、殺された子供達の親がどんなに嘆き悲しんでいるか、分かってきたようだ
な。」お釈迦様は威厳ある口調で言いました。「これからは、誰一人殺してはならぬ。約束する
なら、息子の居場所を教えてあげよう。」
お母さん鬼は答えました。
「あなた様のお言葉、心にしみ入りました。私は自分のことしか考えない母親でした。心の奥か
ら誓います。二度と人を殺したりはしません。約束します...でも...。」それからつぶやくよう
に言いました。
「人肉を食べないでどう生きていけばよいのでしょう。」
「いい食べ物を教えてあげよう。この柘榴(ざくろ)を食べてみなさい。味が人間の肉と似てい
るということだ。」お釈迦様はお母さん鬼に柘榴を手渡しました。
「お言葉ありがとうございます。私がしたことを後悔しています。でも私の罪は何をもってして
も償えるものではありません。どうしたらよろしいのでしょう。」お母さん鬼は訊ねました。
「心を穏やかにしなさい。仏道に帰依しなさい。我が弟子と共に学びなさい。」お釈迦様の声が
やさしく響きました。
お母さん鬼は、それ以来、お釈迦様の弟子と共に苦行を積み、お釈迦様の忠実な弟子となりまし
た。もはや鬼ではありませんでした。母と子が安全で平和に暮らせるように力を尽くしました。
後々、「鬼子母神(きしぼじん)」と呼ばれ、母と子の守り神となりました。

















































