太鼓の中
たいこのなか

2024/10/20(日)

あらすじ

京都西陣の町に織物屋を営む男がおりました。懸命に

働けど苦しい生活を送っていました。多額の借金を返済できず、家財を売

り、密かに家族で町を出ることにしました。

男の仲間が、このうわさをを耳にし、男を苦境から救う手立てを話し合

いました。

「人生とはわからないものだ!あんな真面目な男が、貧乏な生活を送って、町を出なけれ

ばならないとは、全く理解できない。奴は神仏を信じ、他人のことを気にかけ、悪いこと

は一度もしたことがない。是が非でも奴を助けてあげなければならない。」

仲間十人は、酒十升とそれぞれが10両ずつ入れた壺を携えて男の家を訪れました。長(お

さ)が、お金を見せながら、こう言いました。

「この壺に中に100両入っている。この金を元金として、商いを続けてください。さすれ

ば、100両が1000両になるでしょう。」

男は、その話を聞いて嬉しくて涙が出てきました。仲間は、男を励まそうと飲んで騒いで、

明け方千鳥足で帰って行きました。

男も、大層飲まされて、妻に起こされるまで、熟睡していました。

「起きて下さい!借金取りがまもなく来ますよ。お友達から頂いたお金で借金を返しまし

ょう。」夫は驚いて目を覚ましました。妻は話を続けました。「壺を開けてお金を見せて。」

夫が壺を開けると中は空っぽでした。

「金がない。どういうことだ。」二人は、驚いて困惑しました。

「お前さんの仲間を疑いたくはないけど、お金は自分では消えないわ。誰かが盗んだんだ

わ。」妻は、目に涙をためながら言いました。

「これも定めだな。お前の言う通りだ。でも仲間は信じたい。」

「皆さんの好意に答えられないのは残念なことです。こんな惨めな生活を送るくらいなら

いっそ死んでしまったほうがましだわ。」

二人は、白無垢に着替えると、二人の息子を起こし、新しい着物を着させました。あの

世に旅立つ準備はできました。家族全員で仏壇の前に座ると、父親が懐から小刀を取りま

した。その時、年老いたお手伝いさんが部屋に飛び込んできました。

「何をしようとしているんですか?話は全て立ち聞きしていました。死ぬというのなら親

だけ死ぬべきです。二人のかわいい息子さんに何の罪があるというのでしょう!私が代わ

りに育てます。」

隣の人たちが、大きな泣き声を耳にして、やってきました。家族は心中の機会を逃しまし

た。

一家が自殺を図ろうとしたといううわさが、まもなく町中に広まりました。仲間十人が

訪れ、理由を尋ねました。

「確かに昨晩この部屋にいたのは私たち十人だけだった。お金が勝手に消えることはない

し、泥棒がこの部屋に入ったはずがない。お金を出した者がお金を盗んだというのも考え

られない。どういうことだ。」一人が言いました。

「とにかく、この難しい事件を解くのは容易ではない。奉行所にお願いしたほうがいいだ

ろう。」

仲間たちは、事件のいきさつと解決をお願いする陳情書を奉行所に出しました。

数日後、こんな書状が届きました。

「関係者10人とその妻は、明日奉行所に出頭すべし。妻なき時は、女を同伴すべし。」

当日、奉行が、庭にある太鼓を指さしながら、こう言いました。

「そなた全員にその無くなった金の責任がある。そなたらは、大酒を飲み、金が無くなっ

たのに気が付かなかった。罰として、妻もしくは女と長棒を担いで、あの太鼓を南の神社

まで運ぶことを命ずる。」

くじで順番を決めると、一日二組が太鼓を運びました。太鼓は二人で運ぶには大層重く、

目的地まで行くのに数時間かかりましたので、妻もしくは女は、人通りが無くなると必ず

不満を漏らしました。

「とても重い。貧乏人にお金をあげたのに、何でこんな重い太鼓を神社に運ばなければな

らないの?馬鹿げているわ。これからは困っている人を助けるべきではないわ。」

実は、太鼓の中に賢い子どもが隠れていたので、重かったのです。

四日目、子どもは上司にこんなことを言いました。

「今日興味深い話を聞きました。奥さんが旦那さんを軽蔑して、こう叫んでいました。『バ

カ、ばか、馬鹿。』旦那さんは奥さんをなだめようとしましたが駄目で、小声でこう言いま

した。『しばらくの辛抱だ。100両を手に入れるのはそんな簡単なことではない。』すると奥

さんが、『お金はどこにあるの?』と聞くと、『押し入れにある。』と旦那さんが答えました。」

奉行は二人を呼び出し、厳しく問い詰めると、とうとう白状しました。

「善意で与えられたお金を盗むとは何たる不届き者よ!厳罰を処するところだが、一旦は

10両を男に与えた。よって今回だけは命は助けてやろう。しかしこの町に留まること許さ

ん。二度とこの町に踏み入れてはならん。」

お金は、男に戻り、被告人二人は一人は東へ、もう一人は西へと追放されました。


: 50


寓話

物語

関連

© 2025 新解釈物語 | All Rights Reserved.