愛宕物語おとぎ草子
あたごものがたり

2024/10/18(金)

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あらすじ

むかし、むかし、ある国に長者がおりました。聡明で慈悲深く近

隣の人々に尊敬されていました。

長者には五人の子どもがいました。一郎、次郎、三郎は男前で、

詩、音楽、娯楽等に精通していました。しかし、四郎は、浅黒く、

めったに風呂にも入らず、いつもみすぼらしい身なりをしていまし

た。きれいな服を着せられても、貧しい人や物乞いに与えてしまい

ました。食べ物も、お腹のすいている人に施しました。本人は痩せ

細っていました。両親は気をもんでいました。

「どうして、お前は、この家の生まれなのに、いつもそんなみすぼ

らしい格好をしているのだ?」

「私は名誉もお金もいい服もいりません。気ままに行きたいだけで

す。」

兄弟たちは、四郎のことを、この家の恥知らずと、いつもののしっていました。

末っ子は娘で、心優しく寛大で、琴と琵琶に精通していました。

長者の一番の悩みは、誰を跡取りにするかということでした。

「もちろん、四郎は問題外だが、他の三人は四郎に厳しすぎる。四郎がどうなるかを考えると、誰

を家長にするか決められない。」

そこで父は四人を一度家から出し、世間の荒波を体験させることにしました。

長者は、部屋に子どもを呼び寄せ言いました。

「大切な話がある。当然、親として前たちのことは大切に思っているが、お前たちは名誉と財産だ

けを一番大切なものと考え、他人への思いやりがない。そこで世間を知るために三年間この家を離

れてもらいたい。そして三年後の三月この日、戻って来なさい。生きていればその時会おう。」

翌日、子どもたちは渋々家を出ました。五岐路にさしかかると、一郎がみんなに言いました。

「親父は俺たちの運試しをしている。だから俺たちは自分で己の運を試さなければならない。三年

後の三月十五日家で会おう。その日に帰って来なかったら死んだものとあきらめよう。」

一郎は西に向って歩き出しました。三日目、大きな家の前を通った時、その家の主が一郎を見て、

呼び止めました。

「もしもし、そなたはそれなりの身分の方と拝見いたしますが、どちら様でしょうか?」

「私は隣の国から参りました。私たち五人の子どもは、家を出て、世間のことを学んでくるよう父

に命ぜられ、今ここにいるわけです。」

「そのうわさは聞いたことがある。長者さんのご子息の一人ですね?実は、娘がおりまして、あな

た方の誰かと結婚させたいと思っていた所です。ここで出会ったのも何かのご縁と思います。」

ほどなく一郎は、その家の花婿として迎えられ、妻とともに以前より幸せな生活を送りました。

次郎は南に向って歩き出しました。五日目、大きな家の前を通った時、庭いじりをしている主が、

次郎を見て声を掛けました。

「もしもし、そなたは死んだ息子にそっくりです。これは仏さまの導きかもしれません。中に入っ

てゆっくりしていきませんか?」

ほどなく一郎はその家の娘と恋に落ち、娘とともに以前より幸せな生活を送りました。

三郎は南西方向に歩き出しました。五日目の夕方、空腹と疲労のため大きな家を訪ね、一夜の宿

を頼みました。いままでのいきさつを主に話すと、主はこう言いました。

「五人の子どもがいるとは、そなたの父親は幸せですね。それに反して、私にはこの家を託せる息

子はいなく、娘が一人いるだけです。娘は器量よしで心優しいです。どうでしょう娘と結婚して、

この家の跡継ぎになっていただけないでしょうか?」

ほどなく三郎は娘と結婚して、以前より幸せな生活を送りました。

娘は東西方向へ歩き出しました。かわいそうに森の中で右も左もわからなくなってしまいました。

九日目、疲労と空腹で死を考え、いつも携えている観音経を読み始めました。すると光に覆われた

人物が目の前に現れ、こう言いました。

「信心深いお前を助けてやろう。こちらに来て、これを取りなさい。」

というと、その人は娘の手に一錠の薬を置きました。それを飲むと、生気と体力がみなぎってきま

した。娘は立ち上がり、また歩き始め、広大な草地にやってきました。若い殿さまとその家臣がそ

こでウサギ狩りをしていました。殿さまは、一人草原に立つ娘の美しさに魅せられ、娘に呼びかけ

ました。

「そなたはどうしてこんな所にいるのです?お名前は?」

「私は、ある国の名の知れた家の娘ですが、私たち五人の子どもは、父に家を離れて世間のことを

学んでくるように命ぜられました。」恥じらいながら娘は答えました。

殿さまは一目で娘を気に入り、馬上に娘を乗せると城に帰りました。

ほどなく娘は殿さまと結婚し、以前よりも幸せな生活を送りました。

さて、四郎はどうなったのでしょう?

四郎は、自分の運命を嘆くことなく、西に向って、山を越え谷を渡り、淡々と歩んでいました。草

や木の実を食べ、空腹は感じませんでした。十七日目ごろ、森の奥でみすぼらしい小屋を見つけま

した。

「こんにちは。誰かいませんか?」

板壁の隙間から覗くと、年老いた僧が囲炉裏のそばに座っていました。

「中に入ってよろしいでしょうか?」四郎は、傾いだ戸を開けました。

「こんな所までどうしたのですか?」

「道に迷い、どこにいるのか分からなくなってしまいました。私は父に勘当された子どもの一人で

す。村に出るにはどうしたらよいのでしょうか?」

「この森の西の端に小さな村があることはあるが、鬼が住んでいるとのことで、そこから無事に戻

って来た者はいない。」

どこに行ったらよいか迷っている四郎を見て、僧は言いました。

「来た道を戻った方が一番だが、少し疲れているように見える。しばらくここに休んでいきなさい。」

「家に帰りたいと思っていますが、私たち四人の兄弟と妹は、三年後の三月十五日に帰る約束をし

ました。それまでは、不慣れの所で生活しなければなりません。」

「そういうことなら、ここで拙僧の弟子として暮らすのはいかがかな?」

「ここであなたに出会ったのも定めかもしれません。是非、弟子にさせてください。」

老僧は、四郎の頭を剃り、『四郎坊』と名づけました。

四郎坊は、師の手となり足となり、昼夜を問わず、毎日つとめ、ついに約束の日が近づいて来まし

た。

三年後の三月のある日、四郎は師に言いました。

「残念ながら、家に戻る時期になり、お暇をいただかなければなりません。」

老僧は、四郎が旅立つとき、小箱を授けました。

「そなたはよく私に仕え、この三年で拙僧が教えられることは全て教えた。もはや、そなたは立派

な僧である。この小箱を首に掛けておきなさい。いつか役に立つこともあろう。」

三月十五日当日、一郎、次郎、三郎、妹はすでに家に帰り、それぞれの三年間を語っていました。

「ところで、四郎はどうしたのだろう?ひょっとすると生きていないかも知れないな。」父が言いま

した。夕方遅く、ようやく四郎が帰ってきました。

ぼろをまとった四郎を見て、みんな驚きました。

「四郎か?そんなに骨と皮だけで、大丈夫なのか?」と父が言いました。

「何でそんな汚い身なりなんだ!お前は父に一番かわいがられていて、それでみんな家を出ること

を命じられた。帰って来て、またしても俺たちを辱めようとするのか?身の程を知れ。」と一郎が言

いました。

父は四郎を見て大層驚いたものの、嬉しくも思いました。そして汚い服を着替えるよう言いました。

「いえ、それはできません。これはわが師より頂いたものです。脱ぐわけにはいきません。」

「そう言うなら好きにしなさい。さて、跡継ぎのことだが、四郎を除いてお前たち四人は前よりも

幸せに暮らしているようだ。そこで私は全財産を四郎に譲ることに決めた。」

「私は僧侶です。この家を継ぐ権利はありませんし、財産も欲しません。私を除いた四人で分割し

たらいかがでしょうか?私はまだ仏の教えを学ばなければなりません。」

そう言った途端、首から小箱がはずれ、粉々になり、箱から出た真っ白な煙に四郎は覆われました。

すると見事な袈裟をまとった僧がそこに立っていました。

父は、四郎の言葉に感動し、多くの財産を四人に分割し、残りのお金は貧しい人に寄付し、自分

も仏門に入りました。

その後、四郎は高僧になり、その高僧の「愛宕地蔵」が日本のあちこちに立てられています。


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