あらすじ
何百年も昔から、日本人は温泉が大好きです。あちらこちらに温泉が沢山あります。中でも、群馬
県の草津温泉は日本の名湯の一つで、怪我や病気を治す効能があると信じられています。
ある晩、草津の村人が不思議な夢を見ました。阿弥陀様の
お使いが現れ、「観音様が明日の正午頃、ここにおいでにな
り湯浴みをなさる。」というお告げをいただきました。夢の
中で、大勢の湯治客の中から観音様を見分ける手がかりを教
えてくれるようお願いすると、お使いはこう言われました。
「あごひげ、狩猟着。歳の頃は三十代。馬にまたがり、背中
に弓矢。それが観音様。一目瞭然である。」
次の朝、男はお告げを村中に言いふらしました。村人が集
まって、湯治場のうちそとをきれいにしました。
道沿いには鉢植えの花が並べられ、みんな、今か今かと観音
様が現れるのを待っていました。
お昼もとうに過ぎました。半ばあきらめかけた頃、馬に乗った男がやって来ました。夢の中のお告
げを受けたとおりでした。
「あの方が観音様だ。」
村人はささやき合いました。みんな地面にひざまずき、観音様を拝みました。当然、旅人は村人の奇
妙な行動を見て戸惑いました。
「何をしている。みんな誰を拝んでいるんだ。」と村人に尋ねました。
返事をする者はなく、頭(こうべ)を垂れてひたすら拝み続けています。人だかりの中、道の脇に立
っているお坊さんがおりました。お坊さんも目を閉じて拝んでいます。旅人はお坊さんに聞きました。
「一体何なんだ。誰を拝んでいるんだ。」
お坊さんは、その旅人に「観音様が草津の湯につかりに来る。」という村人の夢を話しました。
「本気でおれを観音様と思っているのか。冗談にも程があるぜ。俺はただの猟師だ。挫(くじ)いた
腕の治療に温泉にでもつかろうと思ってここに来ただけだ。ほら、馬から落ちて、この右手を挫いて
しまったんだ。」
男は、その場を立ち去ろうとしますが、そうは行きません。その場を動くやいなや、手を合わせた人
が列になってついてきます。とうとう、やけになって叫びました。
「ついてくるな。俺は猟師だ、観音様ではない。」
しかし、熱狂的な信者から逃れることはできません。とうとう根負けしてしまいました。
「わかった、わかった、みんながそう言うなら俺は観音様だ。お望み通り、坊さんになってやる。」
男は弓と矢を投げ捨てると、狩猟着を脱ぎました。周りを取り囲んだ村人は感動のあまり、涙を流し
ています。
「あの夢は本当だった。観音様が今目の前におられる!」
人だかりの中に、その男に一度会ったことがあり、その男の実の名を知っている行商人がおりました。
「あの男とは顔見知りだ。隣の里の馬頭という奴だ。」
それ以来、その男は「馬頭観音様」と呼ばれるようになりました。
まもなく男は有名な僧の下で仏教を学び、後に位の高い僧となり、人々から尊敬されました。
















































