あらすじ
むかし、むかし、北の地に暮らしている神さまがおりました。
ある日、北の神さまは、その地を離れて長い、長い旅に出ました。
北の神さまは、親交のある南の地の神さまを訪ねる所でした。南
の神さまには年頃の娘がおり、北の神さまはその娘と結婚するこ
とになっていました。
日も、とうに暮れ、北の神さまは泊まる所を探していました。し
ばらくすると、立派な門構えで土蔵もある大きな瓦葺(かわらぶ
き)の家が見えてきました。主(あるじ)はお金持ちのようでし
た。北の神さまは門をくぐると玄関を開けました。
「ごめんください。」
すると、豪華な着物を身に着けた男の人が出てきました。男は、金持ちのくせにけちで、世間からは
「血も涙もない男」と呼ばれていました。みすぼらしい身なりのよそ者をちらっと見て、男はこう言
いました。
「お前のようなよそ者と話す必要はない。」
そう言うと、男は戸をばたんと閉めてしまいました。
北の神さまは、どうしたものかと途方に暮れ、あちこち歩き回りました。まもなく、藁ぶきの小屋が
見えてきました。戸を叩くと中から声がしました。北の神さまが戸を開けると、そこには粗末な着物
を着た男がいました。神さまは男に言いました。
「ごめん下さい。この辺りは全く不案内なのです。今夜、眠る所を探していますが、一晩泊めてもら
えないでしょうか。土間の隅でもかまいません。」
「お入りなさい。見ての通り、むさくるしい所ですが、よろしかったらお泊まり下さい。」
北の神さまは、つい先ほど欲深い男の所を訪れ、野良犬のように扱われましたが、今度は快(こころ
よ)く中に入れてくれる親切な男に出会いました。実は、その親切な男はあの欲深い男の弟だったの
です。弟夫婦は神さまを招き入れると、茣蓙(ござ)にすわるように優しくすすめてくれました。
妻は神さまに言いました。
「さぞお腹がすいていることでしょう。温かいうちにこのお粥(かゆ)を召し上がって下さい。」
そう言うと、粟(あわ)粥の入った碗を神さまに差し出しました。
「心温まるご親切ありがとうございます。いただきます。」
お粥の温かさが五臓六腑(ごぞうろっぷ)にしみわたり、神さまは寝床に入るまで夫婦と談笑しまし
た。
北の神さまが、親切な夫婦の家に泊まってから数年経ちました。
ある日のことです。一人の旅人が、美しい妻と八人の子供を連れて、あの親切な男の家を訪れました。
「むかし、私はこの家で温かいもてなしを受けました。」
戸の前に立っている男こそ北の神さまその人でした。北の神さまは口髭(ひげ)をはやし、以前とは
全く別人のようでした。神さまと一緒にいる女の人は南の神さまの娘で、今は北の神さまの妻、二人
の間には八人の子供がいました。
「私は北の地に帰るところです。今日は以前私をもてなしてくれたお礼を言いに寄らせていただきま
した。」
「とんでもない。さあ、中に入って休んで下さい。」と夫。
妻は冷たい水を出してくれました。暑い日ゆえ、それは最高のもてなしでした。
「うまい!重ね重ね(かさねがさね)かたじけない。お礼に、良いことを教えてあげましょう。葦で
輪を作って、腰に巻きなさい。それから、表の戸に名前を書いておきなさい。そうすれば、近所で疫
病がはやっても、不幸な出来事が起こっても何事もなく暮らしていけるでしょう。」
そう言うと、北の神さまとその家族は立ち去りました。
まもなく、近所に疫病がはやりました。あのけちな金持ち一家は病(やまい)に冒され命を落としま
した。しかし、腰に葦の輪を巻き、表の戸に名前を書いたあの親切な夫婦は、いたって健康でした。
それ以来、村人たちは、そのうわさを信じ、夏になると葦の輪を作って腰に巻き、表の戸にそれぞれ
の名前を書いた、と言うことです。「風土記」より
















































