あらすじ
むかし、むかし、かつて村の長(おさ)をしていた年寄りがおりました。
賀茂祭(葵祭)の行列(路頭の儀)を見たいと思っていました。
祭の日には、沿道には見物人であふれるから、私のような年寄りが行列を見るのはさぞ大変だろう、と思いました。
しばらくして、ふと名案が浮かびました。夜明け前に家を出て、沿道脇に札を立てました。
ここは、ある年寄りが見る場所ゆえ、立ち入りを禁止する。
というものでした。
年寄りは家に戻って、祭の行列が通る時を待ちました。夜が明けてしばらくすると、人が次々に札の
前に集まりました。
「ここに札が立っているぞ。偉い人が立てたに違いない。『ここは、ある年寄りが見る場所ゆえ、・・・』
ところで、ある年寄りって誰だ?」ある男が言いました。
「先の天皇、陽成上皇かもしれんな。」もう一人が言いました。
「そうだな。行列を見るために臣下(しんか)に立てさせたに違いない。」相方が答えました。
そこにいた人たちは頷(うなづ)きました。
「いいか!誰もこのお方の行列の見物を邪魔してはならぬぞ。」もう一人が言いました。
人々がそこを離れると、立て札の周りにあき場所ができました。まもなく、着飾った老人が立て札の
前に現れ、扇を使い始めました。それを見ていた人々は、その老人を陽成上皇の臣下で、じきに上皇
自らが姿を現すだろう、と思いました。
優雅な行列がゆっくりと通り過ぎましたが、上皇はお姿をお見せになりませんでした。
「あれは普通の年寄りに違いない。わしらは札にすっかり騙された。」人々は言いました。
その噂は、陽成上皇のお耳にも達したので、宮廷にその老人を連れてくるよう臣下に命じました。
「汝は、『ここは、先の帝が見る場所である。』と言う札を何故(なにゆえ)に設置した?」帝は年寄
りに尋ねました。
年寄りは遠慮がちに答えました。
「わたしはもう八十を過ぎています。この歳で、祭り見物は無理だろうと思っておりましたが、此の
度、孫が従者として行列に参加することになり、孫の晴れ姿を一目見たいと思うようになりました。
しかし、人が群がる沿道で押し潰されて死んでしまうのではないかと心配しました。そこで、人込み
を避けるために札を立てた次第です。決して、『ここは、先の帝が見る場所である。』とは書きません
でした。『ここは、ある年寄りが見る場所である。』と書いただけです。
上皇は微笑みながら言いました。
「もし汝が自分の名前と所在を札に記していたなら、すぐに札は撤去されたであろう。なかなか如才
(じょさい)ない。」
結局、何のお咎(とが)めもなく年寄りは家に帰りました。
原作:「今昔物語」より
















































