女おいはぎ西鶴
おんなおいはぎ

2024/10/18(金)

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あらすじ

むかし、むかし、東北の山奥に山賊の一味が住んでいました。多

くの店や、大きな家に押し入り、住民を傷つけたり、殺したり、

価値のあるものや大金を盗んだりしました。盗賊のかしらは、帝

や殿様のような大きな邸(やしき)で贅沢三昧の生活をしていま

した。

ある日のこと、かしらは手下に言いました。

「京の都見物に行くことに決めた。いない間、しっかり邸を管理

し、くれぐれも揉め事を起こさず、仕事に励むように。」

かしらは、五人の手下を随行に選び、体を洗わせ、ひげを剃らせ、一張羅を着させました。

「なかなかいい。わしは奥州の富豪として都に行くから、そのつもりで振舞え。言葉使いや振舞いに

はくれぐれも注意することだ。決して本性を見せるな。」とかしらは言いました。

京に着くと、かしらは町中の大きな家を借り、手下と一緒に暮らしました。京見物、買い物、豪華な

食事と満喫していました。町の人々は、驚きの眼差しで彼らを見て、

「確かにあのお方は奥州の金持ちだ。あのような金持ちが奥州にいるとは知らなかった。」と言いまし

た。

ある日、かしらは手下を従えて近隣を歩いていると、少し寂れた大きな家の前を通り過ぎました。す

ると若い娘が子供と蹴鞠(けまり:平安時代の貴族の玉遊び)をしているのが目に留まりました。た

またま鞠が自分の方に転がってきたので、手に取り女性に渡しました。

「申し訳ございません。」娘はお礼を言いました。

「何と美しい人だろう。あれほどの美しい人がこの世にいるとは知らなかった。」かしらは帰りながら

思いました。かしらは、娘の美しさと物腰にすっかり魅せられてしまいました。一目惚れです。「あ

んな美しい人と一緒になれたら、どんなに素晴らしいだろう!あの人は貴族の娘かもしれない、が俺

は山賊。身分が余りにも違いすぎる。さてどうしようか?」

かしらは手下に助言を求めました。

「おかしら。元気を出してください。当たって砕けろです。」一人の手下が言いました。

「突然行っても、会ってくれないだろう。」かしらは弱気でした。

「おかしらは今や奥州の富豪として名が知られてますぜ。あの家もかつては裕福だったようですが、

今はあまり暮らしが良くないように見えます。大金とお宝を持っていけば、娘さんへの求婚に賛成し

てくれますよ。案ずるより産むが易しです。」別の手下が胸を叩きながら言いました。

次の日、黒い袴(はかま)をはいた五人の男が娘の家を訪れました。

「私たちは奥州の『富豪』の使いの者です。まずは、御初にお目にかかったしるしとしてこの品物を

お受け取り下さい。加えて、本日は特別のお願いに参りました。貴殿の娘様を、奥州の富豪である私

どもの主の所にいただけないでしょうか?」

これを聞いたこの家の主は、とても驚きました。

「私の娘は生まれてこの方都から出たことがありません。親として娘を一人でそんな遠い所にやるわ

けにはいきません。どうか諦めて下さい。」

「京の都だけが日本ではありません。ご存知かと思いますが、奥州の松島はとても美しい所です。人

もとても親切で、生活もとても楽です。さらに、我が主は奥州の『富豪』であります。娘さんを一生

涯これ以上ないほど幸せにすることでしょう。こう言っては失礼かとは思いますが、もし緊急にお金

が必要とあれば、必要なだけのお金をご用意いたします。」と偽の使者の一人が言いました。家の主も

徐々に、言葉に耳を傾けました。

「娘へのご親切な申し出に心より感謝いたします。とにかく一回お会いしてから決めたいと思いま

す。」主は娘に尋ねることなく合意しました。

五人はかしらの所に戻ると、声高々に報告しました。

次の日、父親は偽『富豪』を訪れました。五人の袴姿の男がきちんと座る中、男前の花婿を見て、さ

らには沢山の贈り物を頂いて、とうとう山賊のかしらに約束しました。

「娘はあなた様にお譲りいたします。日取りの良い日に、娘を奥州のあなた様にお送りします。」可

哀想に、娘は見知らぬ人との結婚を聞いて、狼狽(ろうばい)し泣き出しました。

「そんなに泣かないでおくれ。残念ながら、今や落ちぶれた生活を送っている私には仕方がなかった。

お前の未来の夫は奥州の『富豪』だ。お金持ちで、とても男前でもある。奥州に下るのはさぞ辛かろ

うが、じきにそこでの生活にも慣れるであろう。お前の幸せのため、私のためではない。」とうとう

娘は突然の結婚に承諾しました。

一月後、娘は奥州に旅立ちました。歩いて、馬の背に乗り、籠で担がれ、ようやく仙台(奥州の主要

都市)に到着し、そこからは数日かけて山道を歩かなければなりませんでした。

山奥の一軒家にたどり着き、娘が見たものは、あちらこちらで動き回っている汚い身なりの人相の悪

い男たちでした。娘は自分の夫は山賊のかしらであることに初めて気が付きました。逃げ出そうとし

ても、すぐに手下たちに捕まりました。娘はとても惨めに感じました。しかし、『朱に交われば赤くな

る。』です。

そんな生活をしばらく送っていると、娘も山の生活に慣れてきました。夫は優しく、手下も自分を慕

って、「女将さん」と呼んでくれました。

まもなく、夫が仕事を終えて戻って来ると笑み浮かべ、お宝を眺めました。ついには夫と一緒に悪事

を手伝うようにもなりました。

夫とともに幸せな生活を送り、娘も二人授かり、山での生活も二十年余りになりました。しかし、か

しらが亡くなると、手下は家にあるもの全て、金、財宝、食料等を奪ってあちこちに逃げてしまいま

した。妻と二人の娘は、思いもしなかった苦しい生活が始まりました。

途方に暮れている母親を見て、娘は慰めました。

「お母さん、心配しないで。お父さんの代わりに私たちが仕事をするわ。男の格好して、年寄りや若

い娘に刀を向けて『金を出せ』と言えば、金を置いて逃げるわ。」

小さい時から、盗みの仕方を知っているのは当たり前のことでした。

数日後、二人は、商人が山道を登って来るのを見つけました。背中に大きな荷を担いでいました。二

人は藪の中でじっと近づいて来るのを待ちました。そして、道に出て、短剣を出しました。一人が、

しゃがれ声で言いました。

「命が惜しければ、ここに荷を置いて、さっさと立ち去れ!」

男は、びっくりして、一言も言わず、荷を放り出すと、一目散に逃げていきました。荷をほどくと、

絹の反物が十反ありました。

「これは綺麗だこと。」二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべました。二人は半分ずつ分けましたが、妹

は帰りにこう思いました。

「一人だったら、みんな私のものだった。半分やるんじゃなかった。」妹は姉にあげた半分も喉から欲

しくなりました。「いっそ殺してしまおうか?家に帰ったら、『手ごわい旅人に出会って姉は不運にも

殺されてしまいました』と言えばいい。姉が油断している時に殺してしまおう。」

一方、同じ頃、姉も同じことを考えていました。二人は邪悪な思いを胸に、山道を下っていると、村

人たちが薪を積んだ上で仏さんを焼いているのを見ました。その光景を見て二人は凍りつきました。

「人間と言うのは、亡くなるとあんな風に焼かれるのだ。いくら綺麗な服を着ても、死からは逃れる

ことはできないのだ。人生はむなしいもの。」

二人は心の中に人生のはかなさを感じました。

「誰もいつ死ぬか分からない。だから生きている間は、みんな仲良く暮らさなければいけない。姉を

殺そうなんて何と恐ろしい考えだろう。」

妹は突然絹の反物を谷に投げ捨てました。それを見て姉も同じことをしました。

「どうしてそんなことをしたの?」姉が妹に聞きました。

妹は、涙声で姉に謝りました。

「ごめんなさい。悪い妹です。お姉さんを殺そうと考えていました。お姉さんの反物が欲しかったの

です。お姉さんを刺し殺して、お母さんには、お姉さんは旅人に殺されてと言おうと思っていました。

でも火葬されている死体の煙の見て、人生を考えさせられました。」

これを聞いて、姉も涙を浮かべて妹に言いました。

「私も同じだったの。妹を殺そうと思っていたわ。人生のむなしさを気付いたの。心を入れ替えて、

お母さんに優しくして、みんな仲良く暮らしましょう。」

二人は全てを母に語りました。親子は抱き合い、泣き崩れました。

「頭を剃って尼になりましょう。そして罪を償いましょう。」

母は初めて子供に自分の素性を話しました。

親子は高僧のお寺を訪ね、自らの罪を告白し、尼としての今後をお願いしました。親子は毎日仏さま

に経を唱え、仏さまのためにつとめました。


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