夢の中の鯉雨月物語
ゆめのなかのこい

2024/10/18(金)

夢の中の鯉の画像

あらすじ

平安時代中ごろのお話です。琵琶湖(滋賀県)に近い三井寺の住職は、

魚が好きで、魚の絵を好んで描いておりました。実を言うと、むしろ暇を作っては、いつも魚を描いていました。

さらに言えば、絵の中の魚は、湖で泳ぐ本物の魚より生き生きと見えました。住職は、もちろん魚を殺した

り、食べたりしたこともありませんでした。

ある日、住職は病気になり、ついに危篤(きとく)状態になりました。

病床を囲んでいる弟子たちは、師の僧が死の床についているのでは、と心

配しました。ところが、三日後、住職は突然目を開き、ふっと大きく息を

つきました。

「よかった。やっと意識が戻りましたか。」一人の弟子が言いました。

「確かに、死んでいたような感じであった。どれ位眠っていたかな?」

「三日間です。」弟子たちが答えました。

住職はうなずき、言いました。

「誰か、村の漁師、スケさんの所に行ってくれぬか。そしてすぐにここに来るように伝えてくれ。

面白い話を聞かせてやりたい。」

しばらくして、若い漁師が僧侶達の所へ駆け込んできました。住職は漁師に言いました。

「お前さんは三日前湖に魚釣りに行って、大きな鯉を釣り、先ほどその頭を切り落としたであろ

う。」

「そのとおりです。どうしてお分かりですか。」スケさんは不思議に思いました。

住職は続けました。

「この三日間奇妙な夢を見ていた。ある日、湖のふちを歩いていて、青々とした湖面に、ふと泳

ぎたくなった。着物を脱ぎ、湖に飛び込んだ。不思議なことに、陸の上と同じように、水の中で

もたやすく呼吸出来てな。すると巨大な魚がやって来て、乗るようにうながした。そして湖の一

番深い所に連れて行かれた。

そこにはきらびやかな衣装を身に着け、頭に冠(かんむり)を戴(いただ)いた人がおってな。

その人こそ湖の神さまだった。神さまはこうわしに言われた。『待っていたぞ。お前は魚を大事に

してくれ、魚の絵をたくさん描いている。そこでわしは、お前に金色の鯉の衣裳を授けようと思

うのじゃ。鯉になって、ここでの生活を思う存分楽しむがよい。しかし一つ警告しておく。よい

か。決して釣針の餌に喰らいついてはならぬ。人間に捕まったら最後、殺されてしまう。』

そう言うと、神さまは消えて、わしは鯉になっていた。幸せな気分で思うままに泳ぎ始めた。三

日間で湖の隅々まで泳いだが、空腹を覚えた。だが、食べるものは何も見つからなかった。やっ

とのことでちょっとした食べ物が見つかった。気をつけるよう言われていたが、これ以上空腹を

我慢できずに喰いついてしまった。お前さんは舟を出して釣りをしていた。あれはお前さんの仕

掛けた餌だろう?お前さんに捕まって、わしは何度も叫んだ。

『わしじゃ、わしじゃ!』

台所で、まな板の上に載せられ、再び叫んだ。

『わしじゃ、住職じゃ!』

でも、お前さんは包丁を持つと、わしの頭を切り落とした。その途端、気がついた。わしは弟子

に囲まれておった。

住職の話を聞いて、漁師は言いました。

「そのとおりです。鯉の頭を切り落とそうとすると、鯉が口をパクパクしているのがわかりまし

た。でもそれが何を意味するかなんて、わてにわかるわけがありません。」

その後、住職は天寿を全うしました。臨終の際、自分の描いた魚の絵を湖に投げ入れて欲しい、

と遺言しました。

奇跡が起こりました。魚たちは絵から抜け出すと、本物の魚になって泳ぎだしたのです。

原作「雨月物語」より


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