あらすじ
むかし、むかし、天竺(インド)の、ある古刹(こさつ)に、朝の読経(ど
きょう)を日課にしているお坊さんがおりました。
ある日、一匹の狐(キツネ)がたまたまお寺の前を通りかかって、お坊さんのお経に聞き入りました。
驚いたことに、狐にはその経文の意味が分かりま
した。それは『人間のみか、たとえ動物でも、高貴な心を持ちさえすれば、
その群れの王となれる。』というものでした。
「それが本当なら、この私でも高貴な心を持てば、動物たちの王になれる、
ということか。」
そう思って、狐はその場を立ち去りました。
別の狐に出会った時、その狐は、自分を高貴な心を持つ狐に見せようと、頭を高く保ち、胸をせいい
っぱい張りだしました。もう一匹の狐はそれを見て、感動のあまり、その前で、すっかりかしこまっ
てしまいました。自分を高貴なものと思い込んでいる狐は、かしこまっている狐を呼び寄せると、そ
の背中に跨(また)がると、歩かせました。
まもなく三番目の狐が現われました。もう一匹の狐に跨り、頭を高く保ち、胸をせいいっぱい張りだ
し、高貴な心を示している狐を見て思いました。
「あの狐は身分の高い狐に違いない。」そして道の脇に座ると頭(こうべ)を垂れました。
最初の狐は三番目の狐を呼び寄せると、二番目の狐の手綱(たづな)を引くように言いました。高貴
な心の狐は、そんな風にして狐を次から次へと従えました。それは、まるで狐の大行列でした。
まもなく犬が現われました。沢山の狐を引き連れて、もう一匹の狐に跨り、頭を高く保ち、胸をせい
いっぱい張りだし、高貴な心を示している狐を見て思いました。
「あの狐は野獣の王に違いない。」
犬は、道の脇に座ると頭を垂れました。
高貴な心の狐は、犬を呼び寄せると、犬の背中に跨りました。するとその狐に出会った犬が次から次
へと行列に加わりました。
狐は、こんな風にして、シカやトラ、クマやカバ、サイの背中に乗りました。ついにはゾウの背中に
乗り、狐は、あまたの動物を従えて、行列の歩みをすすめました。
ゾウに乗った狐は思いました。
「我こそは、野獣の王である。」
そして頭を高く保ち、胸をせいいっぱい張りだし、高貴な心を示しました。
ライオンがやって来ました。様々な動物を連れて、ゾウに乗り、頭を高く保ち、胸をせいいっぱい張
りだし、高貴な心を示している狐を見て、ライオンは思いました。
「あの狐は、野獣の王に違いない。」ライオンは、道の脇に座ると頭を垂れました。
狐は思いました。
「我こそは、今や諸々(もろもろ)の野獣を率いる真の王である。ライオンは百獣の王と言われてい
るが、もはやそうではない。我こそが百獣の王である。」
狐はライオンを呼び寄せて言いました。
「おれ様をお前の背中に乗せよ。」
「あなた様こそ百獣の王です。ご命令とあれば何でもいたしましょう。どうぞお乗りください。」
ライオンに跨った狐は、今や有頂天になって、頭をより高く保ち、胸をさらにせいいっぱい張りだし、
両耳をピンと立て、荒々しい鼻息で、さまざまな動物を引き連れてその先頭を行くのでした。
「もっと多くのライオンを従えよう。」
そう思って、狐は行列を従えて広い野原に向かいました。
行列に加わった沢山の動物が言い合いました。
「我らの新しい頭(かしら)は恐ろしいライオンでさえも、沢山の動物と親しい仲にしてしまった。
まさに神業(かみわざ)だ。」
ところでライオンという動物は、一日に一回吠える習慣があります。その日の午後、ライオンどもは、
いっせいに歩みを止めると、頭を擡(もた)げ、たっぷり息を吸って、ぐるりの動物どもを睨(ね)
めまわしました。
「一体、何が起こるのだろう。」でも、狐は、「我こそは百獣の王だ。高貴な心を保たなければならな
い。」そう思って、ライオンの鬣(たてがみ)にしがみつきました。
ライオンどもは、前あしを上げ、後ろあしで立ちあがると一斉に雷のように
吠え出しました。
「ガオー!」
ライオンに跨(またが)っていた狐は、あっという間に空中に放(ほう)り
出され、頭を地面に突っ込んで死んでしまいました。
「狐め、百獣の王だと思ったから、背中に乗せてやったのに、ちょっと吠え
ただけで滑り落ちて、ころっと逝ってしまった。おれが本気になって声をは
り上げて吠えたらどうなっていたただろう?けちな奴にだまされたもの
だ。」
そう思って、ライオンはねぐらに帰って行きました。原作:今昔物語
















































