あらすじ
津田俊之は、大学の一日かがく教室で子供たちに虹の正体を解き明かそうと講義を始めた。子供たちの目は好奇心に輝き、しかし一部の少女たちは、いつもとは違う冷たい視線を向け、不満の色を隠さなかった。講義終了後、彼は恋人の南川由里と静かなカフェで語らい、今日の出来事を情熱的に話した。「科学は真実を追求するものだ」と熱弁する津田に対し、由里はにっこりと笑いながらも冷ややかに告げた。「あなたは、虹に夢を感じたいという女の子たちの本音をわかっていないのよ」。
その瞬間、津田がもう一度、科学の厳密さと美しさを説き始めたとき、由里の表情が一変する。彼女の顔は青白く染まり、小さな震えが止まらなくなる。まるで、目に見えぬ何かが彼女の内面から溢れ出し、周囲の明かりさえもその存在に抗えなくなったかのようだった。恐る恐る駆け寄る津田に、由里は震える声でただ一言、「こないで」と告げ、身を引いた。
その異様な光景に、津田は胸の奥底から不安が広がるのを感じた。かつて由里が幼少のころに語った、不思議な夢――光とかげが交錯し、現実の裏側に別の世界が広がるという噂――が、今まさに現実となっているかのようだった。急いで古い研究ノートを探し出すと、そこには虹の裏に潜む「影の世界」の存在が記され、特定の状況下で人の心までがその界隈に引き込まれるという伝承があった。
そして、津田は信じがたい事実に気づく。由里は、かつての事故により普通の人間として育たず、科学と幻想の狭間に取り憑かれる特異な存在になっていたのだ。津田が今日、虹の物理学を解説したその瞬間、彼女の中に封じ込められていた「影の声」が覚醒し、彼女自身の存在と一体化しようとしていた。彼女が発した「こないで」という言葉は、抵抗の叫びであると同時に、失われた自分を守るための、静かな絶望の祈りでもあった。
最終局面で、津田は由里のもとへ駆け寄るが、そこにあったのは、かすかに揺れる影だけだった。由里の実体は、闇の中へと溶け込み、まるで最初から存在していなかったかのように。津田は、自らの科学的信念がこの神秘に対していかに無力であったかを痛感せずにはいられなかった。
オチ――津田は後に、影の謎を追い続ける研究者となった。しかし、深い夜の静寂の中でふと気づく。あの「こないで」という声は、単なる恐怖の叫びではなく、由里自身が守ろうとした、科学では説明しきれない“夢”そのものの悲哀であったことを。彼は、生涯、光とかげ、科学と幻想の狭間に存在する真実と共に生きる運命を負うこととなった。

















































