冗費節減
じょうひせつげん

2025/3/26(水)

あらすじ

東洋平和生命はもはやただのオフィスではなかった。ある月曜日、山村ツトムが出社すると、廊下に貼られた大きな掲示板には「冗費節減」とだけ記されていた。経営陣は、効率を極限まで追求するため、全ての会話や文書から不要な言葉を省略する新方針を発表したのだ。

会議室では、普段の熱心な議論が一変し、各自は短い一言だけで指示を交わすようになった。ある日、上司の古川部長が厳かに叫んだ。「我々に、‘ジケイセイ’の悩みは許されんのだ!」その突飛な言葉に、山村は首をかしげるしかなかった。

意味が分からず混乱した山村は、同期の岡本さやかの元へ助けを求めた。さやかは、これまでの省略された会話の中に、微妙なニュアンスや隠された意図があることに気づいていた。二人は、散逸した会議記録や断片的なメールを丹念に調べ、部長の発言の裏に潜む真意を探ろうとした。

やがて、二人は驚愕する事実にたどり着く。省略されるはずの言葉の隙間に、経営陣が極秘裏に進めていた大規模な経費削減、すなわち部署再編と人員整理の暗号が隠されていたのだ。部長が叫んだ「ジケイセイ」は、『自家製節制』の略であり、経費を自前で徹底的にカットする決意を示す合言葉であった。つまり、効率のために全ての必要な情報さえも省略し、社員たちの未来すらも削り取ろうとしていたのである。

山村とさやかは、疑問を抱えたまま、いよいよ上司に詰め寄る決心をした。緊迫した会議の場で、ツトムは問いかけた。「部長、本当に我々に求められているのは何ですか?どこまで省略すれば意味が通じるのでしょう?」すると、古川部長はしばらく沈黙した後、苦々しく口を開いた。「省略して時間を節約するはずが、結果として大切なものまで捨て去ってしまった。結局、我々は効率追求のあまり、未来までも削減してしまったのだ。」

その瞬間、オフィス内に重苦しい空気が漂い、社員たちは自らの行動とその結果に思いを馳せた。笑いごとでは済まされぬ真実を前に、誰もが皮肉な笑みを浮かべたのだ。こうして、東洋平和生命は再び完全な文章を用いる運びとなり、「冗費節減」という理念は、あまりにも徹底し過ぎた効率主義の逆説として後世に語り継がれることとなった。

そして、全員が悟ったのである。無駄を省こうとするあまり、本当に大切なものまで省いてしまう――それが、究極の効率追求の皮肉な結末であることを。


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