トイレの落書
といれのらくがき

2025/3/26(水)

あらすじ

終電が迫るある夜、おしもとは都会の喧騒と不安の中で身を守るように、駅裏の薄暗いトイレへと逃げ込んだ。そこには壁一面に、見る者をぞっとさせる落書きがあった。『午前0時、とびらは閉ざされる』と、力なく刻まれたその文字に、彼は何か不吉な予感を覚える。

最初はただの落書きだと思っていたが、時の流れとともにトイレ内の蛍光灯は断続的にちらつき、影が不気味に形を変え始める。壁越しに聞こえるかすかな囁きや、己の影がひとりでに動くような錯覚。恐怖と好奇心に駆られたおしもとは、やむなくトイレを後にし、駅の薄明かりの中を彷徨い始める。

廊下の先に、落書きと瓜二つの記号が刻まれた古びた扉が現れる。刻限の時、0時の鐘が遠くで鳴り響くと、扉に異様な輝きが走る。躊躇しながらも手を伸ばすと、急に記憶の断片が脳裏をよぎる。かつて、酔いに任せた夜、彼自身が心の叫びとしてこの文字を刻んだ記憶があったのだ。

真実は、外界の怪現象ではなく、長年閉ざしていた心の扉そのものだった。落書きは彼自身の内面の叫びであり、奇妙な幻影と耳元の囁きは、自己嫌悪と孤独が生み出した幻想に他ならなかった。0時と共に現れた扉の輝きは、過去の自分への挑戦状。扉が静かに閉ざされるその瞬間、彼はすべての恐怖と向き合い、己の心に潜む闇を認める決意を固めた。

そして、夜明けと共に駅はいつもの喧騒を取り戻す。おしもとは深い悲しみと同時に、どこか救われた気持ちで外の世界へと足を踏み出す。奇妙な一夜の体験は、彼にとって過去を断ち切るための儀式に他ならなかったのだ。


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