時間のない街
じかんのないまち

2025/3/26(水)

あらすじ

西川慶一は、毎日リムジンに乗り、部下を叱責して権力を誇示する冷徹な社長であった。だが、ある日、部下の不手際に激怒し、運転手との口論の末に、耐えかねた運転手はリムジンを置いて去ってしまう。途方に暮れた慶一は、仕方なくタクシー乗り場へと歩き出す。

歩みを進めるうちに、彼は次第に見慣れた現代の街ではなく、まるで25年前の学生時代に帰ったかのような懐かしくも異様な光景に包まれていることに気付く。石畳の路地、色褪せた看板、やさしい笑顔で挨拶する人々――すべてがかつて彼が夢見た日々の記憶そのものであった。

心の内にかすかな懐古の念とともに、彼は歩を進める。しかし、ふとした瞬間、迎えのはずのタクシーが見当たらず、代わりに小さな校舎のような建物が現れる。戸惑いながらドアを押し開けると、そこに立っていたのは、かつて無邪気に未来を信じた自身の幼い姿であった。

幼き日の慶一は、静かにこう告げる。「あなたは、かつて失った温かな心と時間への未練から離れられず、ここに囚われているのです」。その瞬間、慶一の頭をよぎるのは、リムジンや権力の虚しさ。そして、衝撃の真実が彼を打ちのめした。実はあの日、交通事故で命を落としていたのだ。

すべては、彼の生前の虚栄と冷徹な心が生み出した幻影であり、今やその幻影の中で、彼は永久に己の過去と向き合う運命に囚われていた。これが、時間のない街で彼に待ち受けていた、ささやかながらも痛烈なオチであった。


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