わが様
わがさま

2025/3/26(水)

あらすじ

仕事に没頭するデザイン会社の社長、友枝秋斗は、母の急な訃報を受け、妻・真美と息子・隼斗と共に実家へ帰省する。

実家の古びた蔵は、思い出とともに不思議な静寂を漂わせていた。埃をかぶった一角の畳で、6歳ほどの少年が、どこか威厳のある眼差しで秋斗を待つように佇んでいた。少年は低い声で「わが様」と名乗り、幼い頃に母から聞かされた「わが様のほしいものをあげれば、願いがかなう」という言葉を、まるで生きた記憶のように語りかける。

戸惑いながらも、秋斗は子供の笑顔を思い出すばかりに、まずは懐かしいおもちゃやお菓子を次々と差し出す。しかし、次第に少年の要求は、形あるものではなく「笑い声」や「夏の日だまりの温もり」、「忘れかけた桜の香り」といった、感情や記憶そのものへと変わっていく。秋斗は、自身がこれまで仕事に追われ、家族との絆を希薄にしていたことを、痛切に思い出すのだった。

深夜、蔵内はかつての家族の温かさを感じさせるかのようにざわめき、壁の古写真や埃をかぶった品々が、かすかな囁きとなって秋斗に迫る。ついに彼は、実家の全てを象徴するかのような精巧な模型を作り上げ、少年に捧げる決心をする。模型が差し出されると同時に、薄暗い蔵には柔らかな光が差し込み、少年の姿はゆっくりと変わり始めた。やがて、少年の顔は、母の面影と重なり、ひとときの輝きを放つと、風のように消え去った。

その瞬間、蔵内に母の声のようなかすかなささやきが響いた。「ありがとう、おとうさん。母の願いは、あなたが本当に大切なものに気づくことだったのです。」秋斗は、自らの冷え切った働き方と家族への無関心を深く恥じ、胸奥に眠っていた温もりを再び求めるようになった。一夜にして、物質では埋められない家族の絆の大切さに気づかされた秋斗は、これからの生き方を大きく変えていく決意を新たにしたのであった。


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