あらすじ
広中達郎は、人々からまじめな男と評されていたが、誰にも明かせない重大な秘密を抱えていた。それは、彼の右手が自分の意思とは無関係に暴走し、思いもよらぬ衝動を引き起こすというものだった。
ある朝、通勤電車に乗った達郎は、横に座る女性の肩にふと触れてしまう。乗客たちの驚いた視線を浴びながら、彼は心の中で「またか…」と自分を責めるしかなかった。会社では、日頃のストレスと上司の横暴な言動に耐えかね、知らず知らずのうちに右手が拳となって暴れ、上司に激しい一撃を与えてしまう。その衝動は、同僚たちに不穏な噂を呼び、達郎自身も深い自己嫌悪に陥った。
しかし、彼の最大の悲劇は恋人・中尾明美の元へ起こった。心配して駆けつけた明美を前に、達郎の右手は突如として制御を失い、彼女の首に冷たく迫ったのだ。必死に抵抗しようとするも、右手の暴走は止むことなく、彼の人生は一瞬にして暗転した。
絶望の淵に立たされた達郎は、病院や専門家のもとを訪れるが、医学的にも心理的にも説明のつかない現象に翻弄される。夜ごとに彼の夢には、幼い頃から心の奥深くに封じ込めた怒りと孤独が甦り、「お前はずっと内に潜んでいた」と囁く声が響く。次第に、彼は右手の暴走が、他者への攻撃ではなく、自身の抑圧された感情と過去への復讐であることに気づき始める。
運命のある晩、達郎はとうとう右手に問いかけた。「なぜ、こんなことをするのか」 その瞬間、右手は一瞬だけ眩い光を放ち、まるで自我を示すかのように、空中へと舞い上がった。そして、その光の中で彼は衝撃の真実と対峙する。右手の暴走は、幼少期に刻まれた深い傷と、家族や社会から受けた見えぬ圧力への、自らへの復讐であったのだ。
最終的に達郎は、自分の内面に潜む怒りと苦しみと決別しようと試みる。しかし、右手は彼と切っても切り離せぬ一部であり、冷たくも皮肉な声を残す。「これがお前自身の復讐だ」つまり、あの日明美に触れたこと、そしてその後の連鎖は、他人を敵とするためではなく、ずっと自分自身に対して抱いていた絶望と怒りの顕現であった。こうして、達郎の運命は、自らの内面と闘う孤独な道として、誰にも予測できぬ結末へと幕を下ろした。

















































