憑かれる
つかれる

2025/3/26(水)

あらすじ

倉田聖美は、数々の賞を受賞している人気作家。ある夜、執筆に没頭していた彼女のもとに、ひとつの電話が鳴る。受話器の向こうから聞こえるのは、かつてあまり深く付き合わなかった高校時代の同級生、及川真砂子のかすれた声だった。「私の結婚のお祝い会に来てほしい」と。元恋人が姿を見せるとの噂を聞き、聖美は好奇心とわずかな期待から参加を決意する。

約束された場所は、薄暗い古い館の一角。扉を開けた瞬間、聖美の目に飛び込んできたのは、全身びしょ濡れの真砂子の姿だった。雨に打たれたかのような彼女の様相に、聖美は違和感を覚える。だが、真砂子の瞳には、まるで遠い過去の哀愁と奇妙な光が宿っていた。

真砂子は、震える声で語り始める。実は、彼女は高校時代から囁かれていた“憑り物”の呪いに取り憑かれていたという。その呪いは、過去の未練と絶望が体に宿り、祝福の席でしか解かれない苦しい運命を連れてくるものだった。館内に立ち込める霧とともに、かつての恋人と噂された人物の幻影が、遠くから不気味に揺れて現れる。

次第に、館は奇怪な儀式の舞台と化していく。幻影は、笑いと悲哀の入り混じる声で真砂子に呼びかけ、彼女はまるで踊るかのようにその場を動く。聖美は、恐怖と混乱の狭間で、これが単なる偶然ではなく、真砂子自身がかつての傷と決別するために仕組んだ演出であることを悟る。

そして衝撃のオチが訪れる。全ては、真砂子が長年抱えてきた孤独と絶望への復讐劇であり、今回の「結婚祝い」は、彼女自身が新たな人生を切り拓くための儀式に過ぎなかったのだ。実際、幻影として現れた“元恋人”は、酔いどれの見世物役に過ぎず、彼の登場すらも真砂子の奇策の一部であった。儀式のクライマックスで、聖美は苦笑いしながら呟く。「これで次の小説の題材は決まったわね」。その瞬間、館内にこだまするのは、皮肉と笑いが織り交ぜられた、どこか哀愁漂う不思議な笑い声だけだった。


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