私じゃない
わたしじゃない

2025/3/26(水)

あらすじ

立花小夜子は、平凡な日常を送る一人の女性だった。ある日、ヨーロッパから戻った恋人・圭吾から、手彫りの美しい指輪が贈られる。圭吾の優しさに心を躍らせる小夜子だったが、指輪をはめた瞬間、不思議な感情が胸に芽生える。それは、些細な仕草にも過剰に反応してしまう嫉妬心であった。

デートの最中、圭吾が知らぬ女性と目を交わすだけで、小夜子の心は激しく痛む。突然の激昂に周囲は戸惑い、彼女自身も何故自分がこんなにも熱くなるのか理解できなかった。夜ごとに見る悪夢の中で、中世の古びた館に囚われた一人の女性が現れ、何度も「わたしじゃない」と呟く声が響く。彼女は、かつて愛に裏切られた怨念を胸に、永遠の嫉妬と孤独に苦しんだ魂であった。

次第に、指輪の魔力と怨念は小夜子の心に侵食を始め、本来の彼女の感情と混ざり合っていく。圭吾への愛情も、知らず知らずのうちに嫉妬へと変わってしまった。ある激しい口論の夜、指輪がひとりでに温かく輝くのを目の当たりにし、小夜子は恐怖と悲しみに打ちひしがれる。自分の心が、自分自身のものではなく、遥か昔の怨念によって操られているのだと――。

決意を固めた小夜子は、呪いを断ち切るため、深夜に近所の古い祠へと向かった。涙ながらに指輪を封じ込めようと祈り捨てたその瞬間、指輪は闇の中へと消えたかに思われた。しかし、翌朝目覚めると、指輪は彼女のポケットに滑り込んでいた。圭吾は静かに呟いた。「私じゃない。君の中にいるのは、あの怨念の声だ」――。真実は、彼女自身の嫉妬ではなく、中世の怨念が宿る指輪によって感情が歪められていたという、皮肉にも恐ろしい運命の仕打ちであった。


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