厭な子供
いやなこども

2025/3/26(水)

あらすじ

高部雄三は、夢見たマイホームを手に入れたものの、毎朝片道2時間の通勤、冷めた妻・和子、そして陰湿な上司の皮肉に、日々の生活の重圧に押しつぶされそうになっていた。

ある晩、疲労困憊で帰宅すると、玄関前に一瞬の閃光のような小さな影があった。ドアを開けた瞬間、誰のものでもなさそうな子供が姿を現すと、呼び止める前に風のように走り去った。和子に問いただしても、彼女は何事もなかったかのように振る舞うだけだった。

その夜から、雄三の家では不思議な現象が続いた。廊下でかすかな足音、遠くで響く子供の笑い声、そして時折、幼い手形のような跡が天井や壁に残されるのを彼は発見する。次第に、これらはただの幻ではなく、自分の内面に封じ込めた記憶や、捨て去った情熱の象徴であると確信するに至った。

雄三は、かつて自分が夢中になって追い求めた無邪気な日々を思い起こす。あの頃の自分は、未来に大きな希望を抱き、どんな困難にも果敢に立ち向かっていた。しかし現実は、経済の激流と日常の苛立ちに埋もれてしまい、心の奥底に小さく輝くはずの夢を閉ざしていた。

そして、ある夜、子供が再び現れる。薄明かりの中で、子供は古びたおもちゃを雄三に差し出す。その瞬間、彼の脳裏に幼き日の記憶が鮮烈に蘇る。だが、同時に悟るのだ。あの子供は、外部から押し寄せた侵入者ではなく、失われた自分自身――かつての情熱と希望、そして封じ込めた傷そのものが、具現化した姿であったと。

オチは衝撃的だった。翌朝、家には子供の姿は一切なく、ただテーブルの上にひっそりと置かれたあのおもちゃだけが残されていた。鏡に映る自分の背後に、一瞬だけ小さな影が重なっているのを見た雄三は、その姿が未来の自分、あるいは逃げ続けた過去の警告であると悟る。彼はこれまでの逃避習慣を断ち切り、失われた情熱を再び掴むため、自らの内面と静かに和解する決意を固めたのだった。


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