あらすじ
森沢いずみは、夜の病院にひっそりと足を踏み入れた。長い廊下に響く足音と、時折耳元をかすめる不気味な囁き。ここは、20年前に起こった凄惨な事件と『かがみこさん』の伝説が今なお語り継がれる場所であった。伝説によれば、深夜に特定の鏡に向かって「かがみこさん」と呼びかけると、絶望と怒りに満ちた女性の姿が現れ、呼びかけた者は一瞬にして命を奪われるという。
疑念と好奇心に突き動かされたいずみは、病院の奥深くにある記録室へ向かった。埃をかぶった日誌や古い写真の中から、かつて看護師として勤めた一人の女性――鏡子の存在が浮かび上がる。日誌には、事件直前の不穏な出来事や、鏡の中から囁かれた「せめしめられた命」という謎めいた言葉が記され、病院内に蔓延する呪縛の一端が語られていた。
深夜、いずみは伝説の鏡が残ると噂される廃棄された病棟へと足を運ぶ。薄暗い部屋の一角に、時の重みを感じさせる大きな鏡が鎮座していた。胸が高鳴る中、いずみは震える声で「かがみこさん」と呼びかける。すると、鏡面は一瞬凍り付き、やがて白い影が静かに現れ、その瞳は深い悲哀と怒りを湛えていた。低い声で影は呟く。「あなたも、私と同じ運命を辿るのよ…」
その瞬間、いずみの中に封じ込められていた断片的な記憶が鮮明に蘇る。幼い頃、病院の片隅でふと目にした影。それは、自分自身と重なる、まるでもう一人の自分のような姿であった。混乱と恐怖に苛まれる中、いずみは記録室で再確認した文書や写真の中に、自分の名前と鏡子の名が不可解に絡み合っている事実に気づく。彼女は、かつて看護師として働いていた鏡子そのものであり、過去の悲劇から逃れるために記憶を封じ、新たな身分で生き始めたのだ。
鏡の中の影は、いずみの内面に潜む罪と悲しみの象徴として、やがて低く囁く。「私があなただった。封じ込めた痛みと罪が、今、解き放たれるのよ。」その言葉と同時に、月明かりが差し込む中、鏡はひび割れ、現実と幻想の境界が曖昧になる瞬間が訪れた。いずみは己の運命と向き合う覚悟を決め、失われた記憶と迎え入れる決意を固めた。
そして、最も恐るべき結末が訪れる。鏡に映るのは、もはや外からの侵入者ではなく、いずみ自身の宿命そのものだった。病院に積もる呪縛は、彼女の内面と一体化し、過去と未来が交錯する闇夜の中で、いずみは自らの存在と一体となる。静寂の中、最後の声が告げる。「すべては、あなたの中にあった。」
こうして、伝説と現実が交錯する病院の廊下に、新たな都市伝説が刻まれることとなった。

















































