あらすじ
蛍子は、静かな深夜のラジオスタジオで、いつものようにレコードを回しながら番組を進行していた。そんなある日、一通のメールが届く。送信者は中学生と思われる少年。彼は、心に思ったことが必ず現実になるという——途方もなく信じがたい話を淡々と綴っていた。メールには、失くした鉛筆が忽然と戻ってきたことや、何気ない願いが小さな奇跡を引き起こしたエピソードが記されていた。
最初は半信半疑だった蛍子だが、その不思議な文面に魅かれ、番組ディレクターの若林とスタッフとともに、このお悩みをオンエアすることに決めた。放送が始まると、リスナーからも奇妙な体験談が次々と寄せられる。街中では、誰かがふと思っただけで、突如として予期しない出来事が起こり始めた。例えば、ある視聴者が「昔の友ともう一度会いたい」と呟くと、まもなくして偶然の再会が実現するというのだ。
番組の雰囲気は次第に、笑い話から不安と驚愕の入り混じる空気へと変わっていった。蛍子自身も、気がつけば放送中にふと自分の心の中を口走ってしまい、その直後にかつて失っていた大切な記憶の断片が鮮明に蘇るのを感じた。スタジオの隅で、彼女は埃をかぶった一冊の古い日記を見つける。そこには、かつて自分が中学生だった頃、誰にも言えなかった想いと、ひそかに覚えていた“奇妙な力”のことが綴られていたのだ。
真実は、少年からのメールに隠された単なる都市伝説ではなかった。深夜のラジオという特別な空間が、人々の潜在意識と交じり合い、誰かの心の叫びを現実に映し出す触媒となっていたのだ。そして、蛍子自身もまた、その触媒によって封じ込めていた過去の自分と向き合わざるをえなくなっていた。
そして、番組のクライマックス。若林が「皆さん、今夜最後の願いを放送しましょう」と呼びかけると、蛍子は無意識にかつての自分の心の叫び―『もう一度、あの温かい日々に戻りたい』―と呟いてしまう。すると、スタジオの照明が一瞬にして柔らかな光に包まれ、外の世界はまるで時間が巻き戻されるかのような不思議な空気に満たされた。
その瞬間、蛍子は理解した。あの中学生のメールは、実は過去の自分からのメッセージであり、彼女が封じ込めた自身の潜在能力を呼び覚まそうとする無意識の声だったのだ。――すべては、誰かの願いが現実になるという不思議な現象。だが、その現実は、実は自分自身の内側から溢れ出た、忘れかけた“本当の自分”の叫びに他ならなかった。
放送が終わると、スタジオにはしんと静かな余韻だけが残った。蛍子はひとり、胸の奥で震える記憶と向き合いながら、深夜の奇跡とその代償の重さを噛みしめた。そして、その夜、彼女は自らの内面に秘めた力と、再び失われかけた温かな日々に別れを告げる決意を固めるのだった。

















































