あらすじ
12月の冷たい風が吹く夜、辻村啓太はひっそりと経営する書店で、ふと昔の記憶に浸っていた。五年前、彼と恋人の野上亜矢子は、失われた愛情と痛みを背負いながらも、新しい自分に生まれ変わるために「記憶リセット」を選ぼうとしていた。しかし、直前になって躊躇した辻村は、過去のすべてを胸に残す道を選んだのだ。
それから五年。辻村は店長として静かに書店を切り盛りする中、ある朝、見知らぬ女性が店の扉を開けた。彼女は新人として迎えられたが、どこかどこか、懐かしさを感じさせる眼差しをしていた。辻村は、あの日共に過ごした日々の記憶が、彼女の中に微かに存在していないかと心の奥で問いかける。
亜矢子は、記憶リセットにより表面的な記憶は失っていたが、夢やふとした瞬間に、かすかに温かい感情や匂いのようなものを感じることがあった。日々の業務の中で、辻村とのささやかな会話や、古い書籍の中に見つけた、かつて交わしたメッセージのかけらが、彼女の心にぽつりと灯をともす。
閉店後の書店で、辻村はついに勇気をふるい、そっと問いかけた。『君は、本当に何を探しているのか?』と。亜矢子は一瞬戸惑いながらも、瞳の奥にどこか覚めぬ悲しみと希望を湛え、静かに答えた。『わたしは、きっと…かつてあなただったものを、知らず知らずのうちに求めていたのかもしれません。』
その瞬間、辻村は悟った。記憶リセットは、痛みだけでなく、本当に大切なあいのかけらすらも完全には消し去ることができなかったのだ。消せない記憶が、ふたりの心の奥でひっそりと燃え続け、新たな未来へと歩み出す力となっていた。こうして、ふたりは失われた過去をかすかに取り戻しながら、奇妙で切ない運命に導かれて、再び新たな一歩を踏み出すのであった。

















































