オトドケモノ
おとどけもの

2025/3/26(水)

あらすじ

タクヤは長い一日の疲れを癒すため、いつもの出前アプリを探していた。そんなとき、ひときわ異彩を放つ「オトドケモノ」というアプリが目に留まる。好奇心と不安が交錯する中、彼は試しに注文してみる。

注文して数秒後、玄関のチャイムが鳴り、扉を開けるとセクシーな衣装に身を包んだ女性が立っていた。彼女はにっこりと微笑みながら注文の品を手渡す。その突如として現れる速さに、タクヤと看護師のゆかりは驚愕しながらも、その魅力に引き込まれていく。

翌日から、二人の日常は「オトドケモノ」によって彩られ始めた。最初は軽食やちょっとした贅沢を楽しむだけだったが、次第に届く品々は二人の過去の記憶を呼び覚ますものに変わっていった。幼い頃の家族写真、昔の大切な玩具、さらには忘れかけていた出来事にまつわる品物…届く度に、不思議な懐かしさと同時に、どこか不安な感覚が胸をよぎる。

ある日、タクヤは届いた品の裏に、小さなメモを発見する。「あなたのもう一人が、ここにいます」という淡い文字。それと同時に、配達員の顔がふと幼い頃の自分とそっくりであることに気づく。インターネットで調べると、同じような体験をしたという噂が浮上し、やがて二人は驚くべき真実に辿り着く。

『オトドケモノ』は、ただの出前アプリではなかった。その正体は、人々の忘れ去られた記憶や、深層心理に潜む「もうひとりの自分」を引き出し、届ける装置であったのだ。注文するたびに、配達された品は、自分自身が失っていた大切な一部を映し出し、取り戻すための鍵となっていた。

最後の注文の日、タクヤとゆかりは思い切って「本当に欲しいもの」を入力する。スマートフォンの画面に表示されたのは、『あなたのもう一人が、ここにあります』というメッセージ。そして玄関のチャイムが鳴ると、そこにはかつて共有した温かな記憶の断片、失われたもうひとりの自分が立っていた。二人は驚きと恐怖、そしてどこかの安堵感の中でその存在を受け入れるが、その瞬間、全ての記憶が一瞬にして揺らぎ、現実と夢の境界は消え去る。

オチは、彼らが本当に求めていたのは外界の贅沢や安心ではなく、忘れかけていた自分自身そのものであったということ。配達員の微笑みと共に届けられたのは、速達の如く突如として現れる「自己再生」の鍵であり、取り戻した記憶の断片は、二人を永遠の迷宮へと誘っていったのである。


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