追いかけたい
おいかけたい

2025/3/26(水)

あらすじ

麻美は毎日のように夕暮れの商店街を歩きながら、背後にまとわりつく男の存在に苛立ちと恐怖を感じていた。いつも同じ足音が、彼女の心をざわつかせる。その男には一度だけ、勇気を振り絞って「いい加減にしてください!」と叫んだ思い出が刻まれていた。

しかし、そんな彼女にも、心の奥底に秘めた理想の恋があった。ある日、ふと目にした一人の男性。その柔らかな微笑みと儚げな眼差しに、麻美はまるで映画のワンシーンのような恋心を抱いてしまう。彼の存在は、苦しい日常の中で唯一の光のように映った。

情熱に突き動かされた麻美は、彼こそが自分に想いを寄せる存在だと信じ、直感に従って彼の住む家を突き止める。夜の帳が降りる住宅街に、一軒の趣のある家が静かに佇んでいた。鼓動を速めながら、彼女はこっそりと扉に手をかけ、侵入を果たす。

室内は幻想的な明かりに照らされ、壁一面に貼られた写真や手書きのメモが、不気味な空気を漂わせていた。胸騒ぎを覚えながらも、麻美は奥へと進む。すると、ふと階段から足音が響き、心臓が激しく打つ。扉がゆっくりと開くと、そこに立っていたのは、街角で見たはずのあの男性だった。

男は低く静かな声で語り始める。「ずっと、あなたのことを見守っていました。」その瞬間、麻美の心は凍りつく。これまで恐怖の対象として自分を追い回していた男と、理想の恋人像として心に描いていた男――二つの姿が、一人の男に収まっていたのだ。

男は続ける。「私の愛は、あなたに近づくための唯一の手段でした。追いかけるしかなかったのです。しかし、その愛は次第に狂気へと変わり、ただあなたを守りたいという歪んだ想いとなってしまいました。」その言葉に、麻美は理想と現実が交錯する恐ろしい真実を悟る。

その時、遠くから警察のサイレンが響き始める。近隣住民の通報により、彼の行動は既になんらかの証拠として記録されていた。男は、どこか哀しげな笑みを残しながらも、無言で姿を消していく。麻美は、自らの衝動と甘い妄想が招いた悲劇の重みを、痛感せずにはいられなかった。

月明かりに照らされた夜、麻美は追い求めた愛情がもたらした狂気と恐怖、そして壊れた現実と向き合いながら、己の運命が静かに狂い始めたことを、深い絶望とともに実感するのであった。


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