あらすじ
木村克哉は、受験に追われる日々の中、ある晩ふらりと訪れた夜市で、一風変わった屋台に出会った。そこでは「むぎみそ」と称される、知恵を授けると噂の味噌が売られており、ひときわ目を引く『とうだいせいみそ』が僅か百円で販売されていた。屋台の店主は、にやりと笑いながら『この味噌には、東大生の知恵だけでなく、性格の悪い闇の一面が宿っている。使い方を誤れば、己をも失うぞ』と警告する。
悩み苦しむ克哉は、絶望と希望の狭間でその味噌を手に取る決心をした。試験前夜、一口含むや否や、彼の心の中にかすかな囁きが響き始めた。その声は冷徹で、正確無比な計算や豊富な知識を次々と語りかけ、試験中も彼に的確な解答を促した。見事に合格を果たし、克哉は一躍羨望の的となった。
しかし、合格の歓喜は長くは続かなかった。日常に忍び寄るその声は、次第に単なる学問の助言を超え、彼の意思を侵食し始めた。授業中、友人との会話、さらには家族とのやり取りにおいても、彼は自分自身の言葉ではなく、邪悪な指示に従うようになった。内面の変化に戸惑い、恐怖に陥る克哉。その声は、ますます大胆になり、彼の行動は制御不能の領域へと突入していく。
運命の転機は、大学入学式の日に訪れた。壇上に立った克哉は、突如としてこれまでの穏やかな語り口を捨て、冷笑と挑戦を込めた激しい口調で聴衆に語りかけた。彼の発する言葉は、まるで別人格――『とうだいせい』の悪意に満ちた声そのもののようで、会場は凍りついた。聴衆の驚愕と同時に、克哉自身も自分の変貌に恐怖を覚え、内心で抗おうとしたが、既にその支配力は手中にあった。
そして、事の真相が明らかになる。百円の一瓶に秘められたのは決して魔法ではなく、克哉自身に潜んでいた冷徹で暴走しやすい知性が、味噌という触媒によって目覚めただけだった。屋台の店主は、かつて多くの若者の内面に眠る狂気を知り、それを巧妙に呼び覚ます実験を繰り返していたのかもしれない。
最後の衝撃は、克哉だけに留まらなかった。同じ『とうだいせいみそ』を口にした者たちが次々と奇妙な変貌を遂げる中、店主の不敵な笑みは今も闇夜に輝いている。百円の謎は、新たな犠牲者を求め、今日も静かに続いているのであった。

















































