幽霊社員
ゆうれいしゃいん

2025/3/26(水)

あらすじ

工藤良治は、建設会社の社史編集室でひっそりと働いていた。誰にも気付かれることなく、定時になるとオフィスからすうっと姿を消す彼は、まさに『幽霊社員』と呼ばれていた。定年までの残り4年、何も干渉せず静かに日々を送ろうと決めていた矢先、ある夕方のこと。帰り支度のためトイレに入った工藤は、薄暗い個室の隅に一人の若い男の姿を見つける。男は物憂げな目を工藤に向け、「お願いします、最後の仕事をどうしてもやり遂げたいんです」と懇願する。

驚きながらも、工藤は男の姿に見覚えがあることに気づく。それは、過労で命を落としたはずの若手社員、里山秀平そのものだった。しかも、不思議なことに、この幽霊の姿は工藤だけにしか見えないという。渋々ながらも、里山の切実な願いに心を動かされた工藤は、彼の未完の仕事――社史に隠された真実の記録――を引き受ける決心をする。

工藤は日夜、古い書類や忘れ去られた記録を丹念に調査し、里山が生前に秘かに追求していた会社の労働者たちの苦悩と希望の物語に触れていく。調査を進めるうちに、工藤自身もかつての情熱と誇りを取り戻し始め、淡々とした日常にかすかな輝きを感じるようになる。

やがて、全ての断片が一つに結びついた夜、完成した社史原稿を前に、工藤は静かにため息をついた。その瞬間、トイレに現れた里山の幽霊は、満足げな微笑みとともにゆっくりと消えていった。翌朝、工藤の机は空っぽで、完成した社史の原稿だけが残されていた。不思議なことに、誰一人として工藤の存在に気づかなくなっていた。彼はまるで、自らが追い求めた『最後の仕事』とともに、静かにこの世から消えてしまったかのようだった。皮肉な結末として、工藤は自らの生き様を永遠の匿名性の中に刻み、会社には一筆の伝説として語り継がれることとなった。


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