忘れられたメス
わすれられためす

2025/3/26(水)

あらすじ

病院の夜はひっそりと静まり返り、かすかな冷気が漂っていた。院長の大林は、手術終了後の検査中に、患者の腹部に自分の不注意でメスが残されていることに気付いた。表情一つ変えず、体面を守るため、若手医師である永山高司にその取り出しを命じた。

永山は恐れと不安を抱えながらも、必死に患者の腹部を再度開腹した。しかし、どこを探しても金属の輝きは見当たらず、彼の手は震え、心は焦燥に満ちた。やがて、緊張の中で誤って患者の動脈を切ってしまい、たちまち病室に赤い血が流れ出し、患者は静かに命を落とした。

その惨劇の後、永山は責任を逃れるため、すべてを隠蔽しようと奔走した。しかし、夜半の病院は不思議な現象に包まれていた。深夜、永山が一人、手術室に戻ると、薄暗い照明の中に宙に浮かぶ一つのメスが静かに輝いているのを目にした。彼が近づくと、そのメスはまるで生きているかのように、低く、囁くような声で「逃れられる宿命はない」と語りかけた。

その瞬間、永山は背筋が凍るような悟りを得た。実は、院長大林が隠ぺいのために行った実験的手術は、自らの過ちを他者に転嫁しようとする策略であった。忘れられたメスは単なる医療器具ではなく、彼らが犯した罪と、その代償として追い詰められる運命を象徴していたのだ。

永山はその後、罪の重さに耐えきれず、病院の闇に呑まれるように姿を消してしまう。冷え切った空間には、今もなお、忘れられたメスが彼の逃れられぬ宿命と真実を物語るかのように、静かに輝き続けているのであった。


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