はじめの一歩
はじめのいっぽ

2025/3/26(水)

あらすじ

篠崎 肇は、毎日「まずはじめに」と自らを奮い立たせ、細心の計画のもとで生きる堅実なサラリーマンだった。しかし、その緻密な日常に飽き飽きしていた恋人の坂本 みさきは、いつか彼が自らの殻を破る一歩を踏み出すことを願っていた。

ある夜、二人がデート帰りの静かな街を歩いていると、突如、空が不自然に輝き出し、佇む中年の神と、瑞々しい眼差しの若い神が現れた。次の瞬間、周囲の歩行者や車までもが凍り付き、時が止まったかのような異常な静寂に包まれる。神々はにっこりと微笑みながら、肇に向かって穏やかに告げた。「あなたの願いをかなえよう」

驚きと不信の狭間で、肇の内面にはずっとくすぶっていた変化への渇望が顔を出す。思い切って彼は呟く。「自分を解放し、もっと自由に生きる一歩を踏み出したい」

その瞬間、神々は手をかざしてまばゆい光を放つ。目を開けると、凍り付いていた世界は一変していた。街は即興の劇場と化し、人々は突如、予測のつかない踊りや行動を繰り広げ、信号や看板すらも意味を失っていた。みさきもまた、これまでの慎重さを捨て、自由奔放な姿で街を駆け巡っていた。

初めはその変貌に興奮を覚えた肇だったが、次第に違和感が心をよぎる。混沌の中で、彼は自らの内面と向き合い始めた。実は、あの神々の降臨は、外からの奇跡ではなく、彼がずっと心の奥底に秘めていた「変わりたい」という願望が生み出した幻影に過ぎなかったのだ。すべてが元通りに戻った後、肇はまた静かな街を歩きながら「まずはじめに」と呟いた。しかし、その瞳には以前にはなかった、ほんのりとした冒険心と温かな輝きが宿っていた。

こうして、奇妙な体験のオチとして、彼は気づいた。真の自由や変化とは、突如現れる無秩序な混乱ではなく、冷静さと情熱のバランスの中で自分自身を受け入れる、小さな一歩から始まるのだと。


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