この気持ち伝えて
このきもちつたえて

2025/3/26(水)

あらすじ

北川絵里子は、ある夏の終わりから奇妙な日常に巻き込まれていた。彼女の家の玄関先には、毎日ひとつの封筒が届くようになった。その封筒には、決して差出人の名前が記されず、ただ「この気持ち伝えて」のタイトルとともに、情熱的でどこか切なさを孕んだ文章が封じ込められていた。しかし、絵里子はそれらに不吉な予感を抱き、封を切る勇気を持てず、ただ戸惑いと恐怖を抱いて日々を過ごしていた。

一方、母の桂子は、幼い頃に感じた淡い恋心を思い出すかのように、その文章に秘められた優しさや情熱、そして控えめな自己表現に心を動かされていた。彼女は密かに封筒をしまい、いつか筆者が真実の勇気を振り絞る日を夢見ていた。

そして、ある寒い晩、これまでの手紙とは明らかに様子が異なる一通が届いた。封を切ると、震える手で読まれるその文章には、筆者が余命宣告を受け、病と闘う日々の中で抱いた深い愛情と悔いが綴られていた。衝撃的な一節――「あなたへ。ずっと、あなたを想い続けてきました」――の言葉に、絵里子は自分の名前が浮かび上がるのを見て、これまで感じていた恐怖とは裏腹に、胸の奥に芽生れる切なさと戸惑いを感じた。

しかし、運命は容赦なく皮肉な結末を迎えさせる。翌朝、病院からの知らせが鳴り響き、余命を宣告されていた青年が静かに息を引き取ったとの報に、家中が深い悲しみに包まれた。最後の手紙は、彼の全ての想いと、たとえ届かなくとも伝えたかった「この気持ち」が込められた、かけがえのない遺言のようでもあった。絵里子と桂子は、互いに異なる感情とともに、生命の儚さと愛の不思議な形に気づかされ、心の奥で何か大切なものを失いながらも、新たな視点を得たのだった。


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