急患
きゅうかん

2025/3/26(水)

あらすじ

夜の病院は不自然な静寂に包まれていた。突如、救急車のサイレンが鳴り響き、担当医の七沢治郎は急患の知らせを受け、慌ただしく廊下を駆け抜けた。廊下に広がる緑色の血痕は、まるで生物が暴走したかのような異様な光景を映し出しており、彼の胸に不安を呼び起こす。

治療室の扉を開けると、目の前に広がっていたのは、常軌を逸した光景だった。患者の身体は次第に緑色に変わり、皮膚は波打ち、内臓は溶け出すような状態にあった。驚愕する中、看護師のあつみが必死の表情で駆け寄り、突然自らの身体から鮮烈な緑の血が流れ出す。その瞬間、態勢を整えたもう一人の医師・森も現れるが、彼の瞳に映るのは恐怖と混乱だけだった。

混沌の中、七沢は冷静さを保とうと必死に状況を見極める。ふと、患者の傍らにひっそりと置かれた小さな容器に目が留まる。そこには薄汚れた文字で「prototype-c17 enzyme」と印字されており、病院内で密かに行われていた実験医療の痕跡を物語っていた。かつて、命の再生を目指した新たな治療法として隠されていたその酵素。しかし、正常な免疫反応との予期せぬ相互作用により、対象者の体は恐るべき変異を遂げる副作用を引き起こしていた。

七沢は急速に状況の全貌を掴み始める。患者だけでなく、あつみや森という仲間までもが、この暴走した実験の犠牲となっていたのだ。だが、彼が次に目にしたのは、自身に忍び寄る運命の影だった。ふと、自分の手に浮かぶ緑の斑点に気づいた瞬間、彼は自らも例外ではないことを悟る。鏡に映る自分の顔は、かつて慣れ親しんだ温かい色を失い、不吉な緑色の瞳が瞬いていた。

最後の皮肉とも言える瞬間、七沢は絶望の中で微笑んだ。全てを救おうと奮闘した彼の努力も、科学の狂気と闇に葬り去られたのだ。実験の失敗が招いた惨劇は、命を救うどころか、むしろ破滅へと突き進んでいた。病院はやがて静寂に包まれ、残されたのは医療の尊厳と科学の限界を痛感させる、忘れられない悲劇だけとなった。


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