あらすじ
栞は29歳の女子アナウンサーとして、毎日を静かに過ごしていた。仕事は伸び悩み、妹や周囲からの心配の声に、彼女自身も次第に自信を失いかけていた。そんなある雨の日、駅前で偶然すれ違ったひょうひょうとした僧侶が、穏やかな笑みを浮かべながら囁いた。
「なにかを得たいのなら、まず自分の大切なものをすてなさい」
その言葉は、栞の心に小さな火種を灯す。不運にも、その日の放送中に一番のお気に入りの白いシャツが突如として破け、彼女は落胆する。しかし、思いがけず参加した抽選会で高級牛肉が当たるという幸運が続いた。これを運命の印と信じた栞は、次第に身の回りの物—懐かしい写真、心温まるメモ、長年の思い出—さえも、少しずつ捨て始める。
捨てるたびに、まるで奇跡のような出来事が起こり、仕事にも新たなチャンスが舞い込む。しかし、誰も気づかなかった。栞は、物を手放すと同時に、かつて自分を支えていた感情や記憶さえも、静かに失っていったのだ。周囲は彼女の変貌に驚きを隠せず、しかしその理由は次第に明らかになっていく。
ある夜、凍えるような静寂の中、栞は捨て去った数々の品々を見つめながら、心の奥底にぽっかりと空いた穴を感じる。そんな時、玄関の扉が静かに開き、現れたのは、かつての僧侶と瓜二つの、自分自身の幻影だった。冷たく微笑むその姿が告げる皮肉な真実――全ての幸運は、実は自分の大切な「心」をすて去った代償であった。栞は、自らの選択がもたらした運命の皮肉な結末に、深い虚無感と共に打ちひしがれて、二度と元の自分には戻らないという現実を、静かに受け入れるしかなかった。

















































