あらすじ
引越しして間もない秋の夜、売れっ子小説家・浦木春海は新居の書斎で最新作を執筆していた。静寂に包まれた部屋に、突然、玄関のチャイムが鳴り響く。時計を見ると、正確に午前2時。インターホンの画面には、薄明かりの中、見覚えのない女性が立っていた。「部屋をお間違えでは?」と問いかけると、瞬く間に画面は闇に消えた。
その日以来、毎晩同じ時間にチャイムが鳴り、女性の幽玄な顔がちらりと現れるようになった。眠れぬ夜が続き、原稿は中断され、春海の心は不安と苛立ちに包まれていく。ある日、心配した編集者が訪れ、静かに告げた。「このマンションには、かつて深い悲しみに沈んだ女性の霊が現れるという噂がある」。その一言が、春海の奥底に封じ込めた忘れかけた記憶を呼び覚ます。
嵐の夜、耐え切れなくなった春海は意を決して玄関のドアを開けた。そこには、今までの幻とは違い、実体を感じさせる女性が立っていた。彼女は無言で彼を見つめ、ゆっくりと手招きする。戸惑いながらも彼は、隣室へと導かれ、そこで古びた写真に目を留める。そこには、若かりし春海と、かつて深く愛した女性が共に映っていたのだ。
その瞬間、押し込めていた記憶が鮮明に蘇る。失われた初恋の人―彼女は、あの日、春海が救えなかった運命の犠牲者であり、彼の心に永遠の罪として刻まれていた。女性はほのかな微笑みを浮かべると、まるで許すかのように静かに消えていった。春海は呟くように「これが俺の贖罪か…」と。そして、翌朝、荒廃した書斎の机に向かい、彼は新たな原稿を書き始めた。チャイムはもはや鳴らなかったが、彼の中では過去の罪と向き合う決意が、静かに確固たるものとなっていた。

















































