あらすじ
犬井満は、長年インチキながらも“死者に伝言を届ける”格安伝言サービスを営んできた。金儲けと人々の悲哀を盾に、彼は日々ふざけた儀式のような交信を行っていたが、どこか心の奥で虚しさを感じていた。
ある霧深い秋の夜、美しい女性・斉藤清美がその扉を叩く。彼女は、交通事故で突然婚約者を失い、最後の愛の言葉を届けたいと涙ながらに訴える。清美の真摯な眼差しに、犬井は久しぶりに心を打たれ、普段の詐欺的仕事を忘れて依頼を引き受けることにした。
その夜、薄明かりの中で犬井は古びた機器と蝋燭の灯りで即席の交信儀式を始めた。時刻が深夜を告げると、かすかな雑音とともに、機械越しに一つの声が響いた。だが、その声は婚約者の温もりを感じさせるものではなく、どこか冷たく、断片的に語られる「真実は、あの日から変わってしまった…」という言葉が、空気を凍りつかせた。
翌朝、犬井は震える手で録音を清美に手渡す。だが彼女が耳を傾けると、表情は絶望と恐怖に変わった。そして、かすかな声で告白する。彼女の婚約者は、決してただの事故で命を落としたのではなく、むしろ彼女自身が計画した保険金目当ての犯行の犠牲者であったのだと。あの異様な声こそが、裏切りと後悔に苦しむ霊の叫びであった。
しかし、物語はここで終わらなかった。清美の告白を聞いた犬井は、ふと奥の鏡に目をやる。そこに映るのは、自分自身の虚ろな眼差し。しかし、その目はもう、生者のものではなかった。瞬間、彼は衝撃の事実に気づく。あの奇妙な交信で響いた声――それは、他人のものではなく、自分自身の声であったのだ。犬井は、自らが既にあの世の住人であり、生と死の境界を超えた存在であったことを悟る。
朝日の中、犬井の姿は次第に薄れ、残されたのは彼がかすかに呟いた一言「私たちは皆、あの世への伝言を待っている…」のみ。欺瞞で始まった彼の業は、運命の皮肉によって裏切られ、生と死の境界が消え去る、恐ろしくも哀しい結末へと突入していった。

















































