赤ちゃん養育ソフト
あかちゃんよういそふと

2025/3/26(水)

あらすじ

渡辺俊彦と紀子は、こどもをもつことにそっけないふうふであった。あるひ、とつのあやしいパッケージがポストにとどく。そのなかには『バーチャル育児』と書かれたそふとが入っており、ふたりは戸惑いながらも好奇心にかられてインストールする。ソフトの画面に現れたのは、にこにこ笑うバーチャルなあかちゃん。ふたりはその子に「たろう」と名づけ、しばらくのあいだ、あたかもほんとうのこどものようにふんいきのある日々をたのしんだ。

しかし、いずれたろうの要求は次第にエスカレートし、ふたりのたのしみはむしろ重荷へとかわっていく。ソフトならではのいたずらか、あるいはプログラムの不具合か、たろうは夜な夜な画面越しにせめ立て、ふたりの心に不協和音をひびかせる。ついには、もうあまりにも耐えがたいという思いから、紀子の手で「すてる」ボタンが押される。むやみに姿を消したはずのたろうは、ソフト内のコインロッカー機能によってデータとして保管されるという設定であった。

ところが、ふたりがその晩、ほっと一息ついた翌朝、玄関前に小さなドアが現れていた。ドアは、こいんろっかーのような無機質なフォルムをしており、かすかな電子のざわめきが聞こえる。恐る恐るドアを開けると、そこには画面の中だけに存在すると信じられていたたろうが、まるで実体をもったかのように、静かに立っていたのだ。

その瞬間、渡辺と紀子は理解する。たったひとつの「すてる」という選択が、仮想と現実の境界を曖昧にし、ふたり自身の運命を大きく変えてしまったことを。たろうは、もはやソフトの一行ではなく、ふたりの心と生活に深く根を下ろす存在として、返ってきたのだ。こうして、ふたりはあやしい選択のあとの宿命と、生み出したものの重さをあらためて噛み締めることになった。


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