あらすじ
戸板に豆
ある日、町外れに住む貧乏な男、田中は、冷たい風が吹く中、必死に仕事を探していた。彼の唯一の特技は、面接でのトークだった。まるで「戸板に豆」のようにスラスラと話すことができた。しかし、それが彼の職を得る助けにはならなかった。なぜなら、面接官たちが望むのは、実績や経験であり、彼のトーク力は全くの無意味だったからだ。
失業が長引く中、田中は金銭的な余裕がなくなり、ついに手をこまねいていると、ある日、一通の封筒が届いた。中身は倫理的に疑わしい仕事の依頼書だった。「特定の人に、バレないように悪事を働く」という内容に愕然としたが、何もかも失ってしまった彼は、意を決してその仕事を引き受けることにした。
田中は、自らを「プロの話し手」と名乗り、悪事を働くことに特化した。人々の前で巧みに喋り、その裏で狡猾な罠を仕掛ける彼の手口は思いのほか成功した。しかし、彼の心の中には常に葛藤があった。人の信頼を裏切りつつ、彼は生き延びるために「戸板に豆」のように話し続けなければならなかった。彼の心の片隅で、自分が本当に求めていたことは何だったのか、暗い影を落としていた。
ついに、田中の悪事が露見したとき、彼は捕まることになった。面接で話したあのスラスラした言葉は、彼を救うことも、心の奥底にあった誠実さを取り戻すこともできなかった。彼は牢獄の中で「戸板に豆」のように、過去の栄光(?)を思い返しながら、冷たい壁に寄りかかっていた。「結局、言葉だけでは人は救えない」と痛感しながら、彼はしばしの間、沈黙の牢獄に身を置くことになった。



