あらすじ
去る者は日日に疎し
町の片隅にある小さな酒場『失われた思い出』。いつも一杯の酒を求める常連客たちが集う場所だ。しかし、ある日、酒場の主人であるタケシは新たなメニューを考案した。「去る者は日日に疎しカクテル」と名付けたこの一杯には、過去を思い出させる様々な材料が詰め込まれていた。
メニューの発表から数日後、常連客のジンがこのカクテルを頼んだ。彼は最近、親友のショウが軍に入隊し遠くへ行ったことに心を痛めていた。タケシは少し悪ノリをし、カクテルに「思い出のエッセンス」として、一見綺麗な色合いの液体を加えた。ジンは一口飲むと、心の底から沸き起こる思い出に浸った。「ショウ、元気にしてるかな」とつぶやいた。
しかし、酒場の明るい雰囲気とは裏腹に、タケシはそのエッセンスの正体を明かさなかった。それは、実は近所のペットショップで捨てられたウサギの涙だったのだ。客たちがカクテルを飲むたびに、去ってしまった友人や恋人への記憶が浮かび上がり、時が経つにつれそれが薄れていく様子は、まるで酒場の客たちの心の中のウサギがどんどん消えていくようだった。
そうして月日は流れ、酒場はますます繁盛したが、常連客たちは次第に互いの関係を忘れ、去った者への思いも薄れてしまった。ある晩、店内を見渡すと、どのテーブルにも顔見知りがいないことにタケシは驚いた。「去る者は日日に疎し」、まさにそれを実感していた。タケシは思わず一杯のカクテルを飲み干し、思い出に浸ると同時に、次の新メニューを考え始めた。「去る前に飲もう」と。



