あらすじ
呉服五層倍の笑い
ある日、小さな町にある呉服屋「五層屋」が繁盛していた。店主の田中は、仕入れた着物の原価が1000円だというのに、それを5層倍にした価格の5000円で売ることにこだわっていた。田中は自分の商才を誇りに思っていたが、実は彼の着物の選び方には一つだけ秘密があった。
田中は仕入れた着物を完全に自分の好みに変え、安く見せかけるために、「特製ダイエット着物」という名前をつけて売り出した。お客さんはこれに興味を持ち、実際には普通の着物をダイエットしてみたいという幻想とともに購入していった。しかし、彼が手に入れたのは、質の良い着物ではなく、安い布を重ね合わせただけのものだった。
町の住民たちは、ダイエット着物を着ることで自分たちの体をスリムに見せようと苦しみ、町中にはダイエット着物に挑戦する道場までできてしまった。「呉服五層倍」の名の通り、商売繁盛を極めた田中だったが、実は彼自身がダイエットに成功したことは一度もなかった。彼が着るのはいつも、仕入れた時のままのゆったりした服だった。
周囲の笑い声に包まれながらも、田中は「これは商売の道だ」としらじらしく笑った。一方、町の人々は彼の商法にハマってしまい、ダイエット着物を収集することに夢中だった。もはや、田中はたんまりと利益を得たものの、彼自身は自分が売っているものが「呉服五層倍の虚像」であることに気がつくことはなかったのだ。そして町の人々は、彼らの服装が彼ら自身の体重よりも重いことに気づくのは、もう少し先のことだった。




